Scope3カテゴリー3とは?燃料・エネルギー関連活動の排出量を徹底解説【算定方法・事例付き】

■AIによる記事の要約
Scope3カテゴリー3は、企業が使用する電力・燃料などの「上流工程」で発生する温室効果ガス排出を対象とした指標です。Scope1・2の補完的役割を果たし、真の環境負荷把握に不可欠です。算定には精緻なデータ収集や再生可能エネルギー証書(REC)の取扱いが重要で、AIやブロックチェーンの活用も進んでいます。製紙業などエネルギー多消費産業では特に重要視され、削減施策により大幅な排出量削減も可能です。企業の脱炭素戦略において中核的な要素となっています。
Scope3カテゴリー3の基本概念
Scope3カテゴリー3とは?
Scope3カテゴリー3(燃料・エネルギー関連活動)は、企業が購入した電力、ガス、熱、冷却などのエネルギーの上流工程で発生する間接的な温室効果ガス排出量を指します。企業のサプライチェーン全体で発生するScope3排出量の中でも、特に重要な位置を占めるカテゴリです。
このカテゴリでは、エネルギーの生成・供給プロセスにおいて発生する排出量を対象とし、企業の環境負荷をより包括的に把握することを目的としています。具体的には、発電所での燃料燃焼、燃料の採掘・精製・輸送段階での排出、エネルギー変換プロセスで生じる排出量が含まれます。
Scope1・2・3の関係性と違い
温室効果ガス排出量の分類において、Scope1からScope3までの違いを理解することが重要です。
【Scope1・2・3の排出範囲の比較図】
企業活動における排出範囲の分類
Scope3カテゴリー3は、Scope1・2で計上されるエネルギー使用に関連する上流の排出量を補完する役割を担います。これにより、企業のエネルギー消費に伴う真の環境負荷を正確に把握できます。
2025年最新動向とScope3カテゴリー3への影響
国際的な規制強化の動き
EU域内排出量取引制度(EU-ETS)の対象拡大や、炭素国境調整措置(CBAM)の段階的導入により、日本企業の欧州向け輸出においてもScope3の正確な算定が必要不可欠となっています。
デジタル技術を活用した最新算定手法
AI予測モデルを活用した排出量算定精度の向上や、ブロックチェーン技術による証書管理の透明性確保など、テクノロジーの進化がScope3カテゴリー3の算定を大幅に効率化しています。
Scope3カテゴリー3の対象範囲
含まれる具体的な活動
Scope3カテゴリー3には、以下の活動が含まれます。
購入エネルギーの上流排出
- 電力発電時の燃料燃焼に伴う排出
- 送電・配電過程での電力損失による排出
- 天然ガス供給システムでの漏洩による排出
燃料のライフサイクル排出
- 石炭、石油、天然ガスの採掘時の排出
- 燃料の精製・加工プロセスでの排出
- 燃料の輸送・貯蔵に伴う排出
再生可能エネルギー関連
- 再生可能エネルギー証書(REC)の発行・取引に関わる排出
- 再生可能エネルギー設備の製造・設置・廃棄に伴う排出
再生可能エネルギー証書(REC)の算定方法
再生可能エネルギー証書の取り扱いは、Scope3カテゴリー3の算定において重要な要素です。
RECの算定における基本原則
- 証書の発行量と実際の消費量の対応:企業が購入したREC量と実際の再生可能エネルギー使用量を正確に対応させる
- 二重計上の回避:Scope2での排出削減効果とScope3カテゴリー3での影響を重複して計上しない
- 地域性の考慮:REC発行地域と企業のエネルギー使用地域の電力系統を考慮した算定
具体的な算定手順
REC関連排出量の算定式:
排出量 = (購入電力量 – REC適用電力量)× 系統電力の排出係数
+ REC適用電力量 × 再エネ発電の上流排出係数
製紙業におけるScope3カテゴリー3のケーススタディ
製紙業界の特徴と課題
製紙業は、大量のエネルギーを消費する産業として、Scope3カテゴリー3の管理が特に重要な業界です。製紙プロセスでは、パルプ化、漂白、乾燥工程で大量の電力と蒸気が必要となります。
A製紙会社の事例分析
企業概要
– 年間生産量:100万トン
– 主要製品:新聞紙、段ボール原紙
– 生産拠点:国内3工場
エネルギー使用実績(年間)
– 電力使用量:500GWh
– 天然ガス使用量:50万m³
– 重油使用量:5,000kL
Scope3カテゴリー3排出量の算定結果
1. 電力の上流排出
– 使用電力量:500GWh
– 系統電力の上流排出係数:0.02 kg-CO₂/kWh
– 上流排出量:10,000 t-CO₂
2. 天然ガスの上流排出
– 使用量:50万m³
– 天然ガス上流排出係数:0.5 kg-CO₂/m³
– 上流排出量:250 t-CO₂
3. 重油の上流排出
– 使用量:5,000kL
– 重油上流排出係数:0.3 kg-CO₂/L
– 上流排出量:1,500 t-CO₂
合計Scope3カテゴリー3排出量:11,750 t-CO₂
削減対策の実施例
短期的対策(1-2年)
– 高効率設備への更新による電力使用量の削減
– 燃料転換(重油から天然ガスへの転換)
– エネルギー管理システムの導入
中長期的対策(3-5年)
– 再生可能エネルギーの直接調達(PPA契約)
– バイオマス燃料の導入
– コジェネレーションシステムの導入
効果測定結果
対策実施により、3年間でScope3カテゴリー3排出量を25%削減(2,940 t-CO₂削減)を達成しました。
排出量の測定・算定方法
データ収集の体系的アプローチ
Scope3カテゴリー3の正確な算定には、以下のデータが必要です。
必要データの詳細分類
図① データ収集項目・方法
カーボンフットプリント算定のための基礎データ収集フレームワーク
データ収集項目・方法一覧
分類 | 具体的項目 | 収集方法 | 精度レベル |
---|---|---|---|
エネルギー使用量 | 電力、ガス、燃料の月別使用量 | 請求書、メーター読み取り | 高 |
供給業者情報 | 電力会社の電源構成、排出係数 | 供給業者からの開示情報 | 中 |
燃料種別 | 使用燃料の詳細仕様 | 購入契約書、仕様書 | 高 |
輸送距離 | 燃料の調達地から使用地までの距離 | 物流データ、地図情報 | 中 |
科学的根拠に基づく算定手法
基本算定式
カテゴリー3排出量 = Σ(エネルギー種別使用量 × 対応する上流排出係数)
排出係数の設定方法
- 国際基準の活用:IEA(国際エネルギー機関)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の係数を使用
- 地域別係数の適用:各国・地域の電力系統や燃料供給構造を反映した係数を選択
- 最新データの更新:年次で排出係数を見直し、算定精度を維持
課題と解決策
主要な課題の分析
データ入手の困難性
- サプライチェーンの複雑化により、詳細なエネルギーデータの取得が困難
- 国際的な燃料取引における情報の非開示
- 中小規模のエネルギー供給業者からのデータ提供体制の未整備
算定手法の標準化不足
- 地域・業界による排出係数のばらつき
- 再生可能エネルギー証書の取り扱い方法の統一不足
- 企業間での算定方法の相違による比較困難
サプライヤー協力の限界
- エネルギー供給業者の情報開示意識の差
- 機密情報保護と透明性確保のバランス
- 国際的なサプライチェーンでの協力体制構築の複雑さ
実効性のある解決策
デジタル技術の活用拡大
図② 技術活用・期待効果
図② 技術活用・期待効果
デジタルテクノロジーによるカーボンマネジメント最適化
技術活用・期待効果一覧
技術 | 適用分野 | 期待効果 |
---|---|---|
IoTセンサー | リアルタイムエネルギー監視 | データ収集精度向上 |
AI/機械学習 | 排出量予測・最適化 | 算定効率化 |
ブロックチェーン | データ透明性確保 | 信頼性向上 |
クラウドプラットフォーム | データ統合管理 | アクセス性向上 |
業界連携による標準化推進
- 業界団体主導による共通算定ガイドラインの策定
- 企業間でのベストプラクティス共有フォーラムの設立
- 国際的な算定基準統一に向けた官民連携の強化
Scope3算定支援サービスの活用
専門的なScope3算定支援サービスを活用することで、企業は効率的かつ正確な排出量算定を実現できます。これらのサービスには、データ収集支援、算定システム提供、レポート作成支援などが含まれます。
実務における管理のポイント
段階的な導入アプローチ
フェーズ1:基礎データの整備(6ヶ月)
- 現状のエネルギー使用量データの収集・整理
- 主要なエネルギー供給業者との連携体制構築
- 基本的な算定システムの導入
フェーズ2:精度向上と範囲拡大(12ヶ月)
- 詳細な上流排出係数の適用
- 小規模なエネルギー使用源の把握
- 月次での排出量監視体制の確立
フェーズ3:戦略的活用と改善(継続)
- 削減目標の設定と進捗管理
- サプライヤーとの協力による排出削減
- 外部報告・開示への活用
品質管理と検証
内部監査体制の整備
- 算定プロセスの文書化と手順の標準化
- 定期的なデータ品質チェックの実施
- 算定結果の妥当性検証
第三者検証の活用
- 国際的な検証基準(ISO14064-3等)に基づく外部検証
- 検証結果を踏まえた算定プロセスの継続的改善
- ステークホルダーへの信頼性確保
よくある質問(FAQ)- Scope3カテゴリー3について
Q1. Scope3カテゴリー3の算定は義務ですか?
A1. 現在、日本では法的義務はありませんが、TCFD提言やSBT認定を受ける企業では実質的に必須となっています。特に上場企業や大手サプライヤーとして選定される企業にとって、Scope3カテゴリー3の算定・開示は競争優位性の確保に直結します。2024年からは有価証券報告書での気候変動情報開示も段階的に義務化されており、今後さらに重要性が高まると予想されます。
Q2. 中小企業でもScope3カテゴリー3の算定は必要ですか?
A2. 中小企業においても、大手取引先からのScope3削減要請が増加しており、サプライチェーン維持のために算定が求められるケースが急増しています。特に製造業では、親会社のScope3カテゴリー1(購入した製品・サービス)に含まれるため、取引継続の条件として提出を求められることがあります。
Q3. Scope3カテゴリー3とカテゴリー1の違いは何ですか?
A3. カテゴリー1は購入した製品・サービスの製造時排出量、カテゴリー3は購入したエネルギーの上流工程排出量を対象とします。簡単に言えば、カテゴリー1は「モノ」、カテゴリー3は「エネルギー」の上流排出を扱います。両方とも企業の間接排出量として重要ですが、算定方法と対象範囲が明確に異なります。
まとめ
Scope3カテゴリー3(燃料・エネルギー関連活動)の適切な管理は、企業の包括的な温室効果ガス排出量把握と削減戦略の策定において不可欠な要素です。エネルギーのライフサイクル全体を通じた排出量を正確に算定することで、企業は真の環境負荷を把握し、効果的な削減施策を実施できます。
特に、Scope1・2との関係性を理解し、再生可能エネルギー証書の適切な算定方法を採用することで、企業の脱炭素化への取り組みをより戦略的に進めることが可能となります。製紙業のケーススタディで示したように、業界特性を踏まえた具体的なアプローチが重要です。
データ収集の困難性、算定手法の標準化、サプライヤーとの協力といった課題に対しては、デジタル技術の活用、業界連携の強化、専門的なScope3算定支援サービスの利用が有効な解決策となります。
企業がカーボンニュートラル社会の実現に貢献するためには、Scope3カテゴリー3を含むすべての排出源に対して体系的なアプローチを採用し、継続的な改善を図ることが求められています。正確な排出量算定と透明性のある報告を通じて、持続可能な経営の実現を目指すことが重要です。