Scope3 カテゴリー1についての解説

■記事の要約

企業がカーボンニュートラルを達成するには、温室効果ガス(GHG)排出量の削減が不可欠であり、Scope3カテゴリー1(購入した製品・サービス)のGHG排出量管理が重要です。正確な算定にはデータ収集・標準化が課題となり、解決にはデジタル技術やサプライヤー連携、国際基準活用が求められます。

 企業がカーボンニュートラルを達成するためには、温室効果ガス(GHG)排出量の削減が不可欠です。特に、自社の直接排出(Scope1)や購入エネルギーの排出(Scope2)に加え、サプライチェーン全体にわたる間接排出(Scope3)の管理が重要視されています。その中でも「カテゴリー1(購入した製品・サービス)」は、多くの企業にとってGHG排出量の大部分を占めるため、正確な測定と管理が求められます。しかし、カテゴリー1の排出量を算定するには、サプライヤーからのデータ取得や標準化、算定方法の選定など、さまざまな課題が存在します。本記事では、カーボンニュートラルの実現に向けて、カテゴリー1の測定・管理における課題と、それらを克服するための具体的な解決策をEcoNiPassチームが詳しく解説します。

 Scope3(スコープ3)とは、企業の温室効果ガス(GHG)排出量を測定する際に考慮される間接排出の一部であり、直接排出(スコープ1)や購入エネルギーに関連する排出(スコープ2)とは異なり、企業のサプライチェーン全体における排出を対象とします。特に「カテゴリー1」は、企業が調達する製品やサービスのライフサイクル全体における排出を指します。これは、原材料の採取から製造、輸送、さらに企業が購入した後の初期段階の使用までのプロセスを含みます。例えば、衣料品メーカーであれば、綿や合成繊維の採取から生地の生産、染色、仕立て、倉庫保管、輸送までの各プロセスがカテゴリー1に該当します。

 このカテゴリー1の排出量を正確に把握することは、企業のサプライチェーン全体の環境負荷を評価する上で極めて重要です。企業はサプライヤーごとの排出量を管理し、サステナビリティ目標の達成に向けた戦略を立てる必要があります。特に、企業の製品・サービスにおける環境負荷の大部分がサプライチェーンに起因している場合、カテゴリー1の削減が全体のGHG排出量削減の鍵となります。

 また、カテゴリー1の排出量は、国際的な基準であるGHGプロトコルやSBTi(Science Based Targets initiative)などの枠組みに基づき算定されることが一般的です。これにより、企業はグローバルな視点での環境対応を進め、持続可能な経営を実現することが求められています。

 カテゴリー1に関する正確な排出量を測定し、報告するためには、以下の要素が必要です。

データ収集

 仕入先からの排出データの取得が不可欠であり、特にサプライチェーンの上流にある企業からの情報収集が求められます。しかし、サプライヤーによっては排出量のデータを持っていない場合が多く、データの標準化やフォーマット統一が課題となります。

 ライフサイクルアセスメント(LCA)データの活用により、製品やサービスの環境影響を定量的に評価することが可能になります。特に、特定の材料や製造工程が排出にどのような影響を与えているのかを把握することで、効果的な削減策を講じることができます。

 経済産業省や国際的な排出原単位データベースを活用することで、標準化された排出係数を適用し、より精度の高い算定を行うことが可能となります。

算定方法の選定

  • サプライヤー特定法: 各サプライヤーから具体的な排出データを収集する方法で、最も正確な算定が可能ですが、データ取得の負担が大きく、すべてのサプライヤーから情報を得るのは困難な場合があります。
  • 支出ベース法: 企業が支払った購入金額に応じた排出係数を用いて算出する方法で、手軽に適用できるものの、製品ごとの排出特性を正確に反映しづらいという課題があります。
  • 活動ベース法: 購入した物量を基準に排出量を算出する方法であり、サプライヤーからの詳細データが不足している場合でも一定の精度を確保することができます。

データの精度向上

  • サプライヤーとの協力によるデータ精度向上: サプライヤーに対し、排出データの提出を促し、継続的な情報提供を求めることで、より正確なデータを確保することができます。また、環境負荷の少ない製品や工程の導入をサプライヤーに促すことも重要です。
  • 第三者認証機関による検証: 取得したデータの信頼性を向上させるために、ISO14064やGHGプロトコルなどの国際基準に基づく第三者認証を受けることが推奨されます。これにより、データの透明性が高まり、ステークホルダーへの説明責任を果たしやすくなります。
  • 継続的なデータ更新: サプライチェーンの変化や生産工程の改良に伴い、排出量も変動します。そのため、定期的にデータを見直し、最新の情報を反映することが求められます。特に、新しい技術の導入や再生可能エネルギーの活用が進む中で、よりリアルタイムなデータ管理が重要になります。

 カテゴリー1の測定・管理にはさまざまな課題が伴います。ここでは、カテゴリー1の排出量を正確に算定・管理する際に直面する主な課題について詳しく説明します。

データの入手困難

 カテゴリー1の排出量を測定するには、サプライヤーからの詳細な排出データが必要ですが、多くの企業は十分なデータを提供できない、または提供を拒否するケースが少なくありません。特に、中小規模のサプライヤーは排出量を測定する仕組みを持っていないことが多く、データの取得が困難になります。また、複数の国や地域にまたがるサプライチェーンでは、各国の規制や企業文化の違いがデータ収集の障壁となります。

標準化の問題

 GHG排出量の算定には、国際基準(GHGプロトコルなど)があるものの、各国や業界によって適用される計算方法や排出係数が異なるため、統一された基準でデータを比較・管理するのが難しいという課題があります。また、サプライヤーごとに使用するデータベースが異なる場合、企業間でのデータ整合性を確保することが困難になります。

算定の複雑さ

 カテゴリー1の排出量は、製品の原材料採取、製造、輸送など、多段階のプロセスを含むため、正確な算定が複雑になります。特に、多品種の製品を扱う企業では、それぞれの排出量を個別に算定することが難しく、どの算定方法を適用するべきかの選択が求められます。代表的な算定方法には、「サプライヤー特定法」「支出ベース法」「活動ベース法」がありますが、どれを採用するかによって結果が異なるため、適切な手法の選定が重要です。

コスト負担

 排出量データの収集、算定、報告には相応のコストがかかります。特に、サプライヤーが排出量データを提供できない場合、企業自身で推計する必要があり、外部の専門機関に依頼することでコストが増大する可能性があります。大企業であれば対応できる場合もありますが、中小企業にとっては大きな負担となり、結果的に排出量の測定・管理が進まない要因となります。

サプライヤーの協力不足

 カテゴリー1の測定には、サプライヤーの協力が不可欠ですが、すべてのサプライヤーが環境負荷低減に関心を持っているとは限りません。特に、コスト削減を優先する企業では、排出量の算定やデータ提供のためのリソースを割くことが難しい場合があります。そのため、企業側がサプライヤーに対してデータ提供の必要性を理解してもらい、協力を促すための取り組みが求められます。

 企業はこれらの課題を認識した上で、持続可能なサプライチェーン構築に向けた戦略を検討する必要があります。

 カテゴリー1の測定・管理における課題を克服するために、以下の具体的な解決手段が考えられます。これらの手法を適切に活用することで、企業はより正確な排出量算定を行い、持続可能なサプライチェーンの構築を推進できます。

データの標準化と活用

 カテゴリー1の排出量を正確に測定するためには、標準化されたデータと算定方法が必要です。そのため、以下のような対策が有効です。

国際的な排出データベースの活用

 企業は、GHGプロトコル、ecoinvent、Exiobaseなどの国際的な排出データベースを活用することで、業界ごとの排出原単位を統一し、より正確なデータ分析が可能となります。

統一された排出係数の適用

 サプライチェーン全体で統一された排出係数を適用することで、異なる企業間でのデータの一貫性を確保できます。これにより、企業間の比較が容易になり、業界全体の透明性が向上します。

デジタル技術の活用

 デジタル技術を導入することで、データの収集・管理が容易になり、排出量の可視化が進みます。

AI・ブロックチェーンを活用したデータ管理・可視化

 AIを活用することで、膨大なサプライチェーンデータを分析し、排出量の推定精度を向上させることができます。また、ブロックチェーン技術を用いることで、データの改ざんを防ぎ、透明性を確保できます。

クラウドベースのプラットフォームによるリアルタイムデータ共有

 クラウドシステムを活用すれば、サプライヤーとリアルタイムで排出データを共有でき、企業間の連携が強化されます。これにより、データの更新頻度が高まり、より正確な情報を基に意思決定が可能となります。

サプライヤーとの連携強化

 カテゴリー1の排出量削減には、サプライヤーとの協力が不可欠です。以下の方法により、サプライヤーとの連携を強化できます。

環境負荷の少ないサプライヤーの優先選定

 サプライヤーの選定基準に環境負荷を加味し、排出量の少ない企業を優先的に選定することで、全体の排出量を削減できます。

取引先企業との協力による排出量削減の推進

サプライヤーと協力し、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの活用を推進することで、サプライチェーン全体の排出量を抑えることができます。また、共同で排出削減目標を設定することで、効果的な削減が可能になります。

政策・ガイドラインの活用

 政府や業界団体が策定するガイドラインを活用することで、企業は適切な排出削減計画を立案できます。

国際基準に基づいた削減目標の設定

 SBTi(Science Based Targets initiative)やCDP(Carbon Disclosure Project)などの国際的な枠組みに基づいて削減目標を設定し、長期的な視点で排出削減を進めることが重要です。

政府・業界団体との協力による規制対応

 各国政府や業界団体と協力し、最新の環境規制に対応することで、持続可能な事業運営を確立できます。例えば、EUの「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」などの制度に対応することで、国際市場での競争力を維持できます。

 カテゴリー1の排出量を正確に測定し、管理するためには、データの標準化、デジタル技術の活用、サプライヤーとの連携、政策の活用といった多面的なアプローチが求められます。これらの手段を適切に組み合わせることで、企業は持続可能な成長を実現し、環境負荷の低減に貢献できます。

 Scope3カテゴリー1のGHG排出量の測定・管理は、企業のカーボンニュートラル達成に不可欠です。しかし、データの収集や標準化、サプライヤーとの連携には依然として課題が多く残されています。これらを解決するには、国際基準の活用やデジタル技術の導入、サプライヤーとの協力強化が欠かせません。

 カテゴリー1の排出量削減は、企業にとって喫緊の課題です。適切な対策を講じることで、環境負荷を低減しながら競争力を維持し、サステナブルな未来の実現に貢献できます。今後は、より高度なデータ活用や技術革新を取り入れながら、Scope3の排出量管理を強化していくことが求められます。

 EcoNiPassは、本記事で触れたカテゴリー1の測定・管理に関する課題に対応し、効果的な排出量の算定・削減を実現するためのソリューションを提供します。データの可視化や標準化された排出量管理の支援を通じて、企業のサステナビリティ推進を後押しし、持続可能な社会の構築に貢献します。より精度の高い排出管理を実現し、サプライチェーン全体のカーボンニュートラルに貢献しませんか?

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