日本企業が対応を求められている脱炭素関連制度・ガイドライン一覧(2025年版)

■AIによる記事の要約
本記事は、2025年時点で日本企業が把握しておくべき脱炭素関連の制度・ガイドラインを、公式資料に基づいて整理しています。温対法による排出量の算定・報告制度、Scope1・2・3を対象とした算定ガイドライン、TCFDやISSBなどの情報開示基準、EUのCSRD、GXリーグ・GX-ETSといった政策動向を俯瞰的に解説しています。これらの制度は目的や対象が異なりますが、共通して排出量データを根拠をもって継続的に管理することが求められています。脱炭素対応は個別対応ではなく、平時からのデータ管理体制の構築が重要であると示しています。
目次
はじめに
近年、「カーボンニュートラル」「脱炭素経営」という言葉が広く使われるようになりましたが、実務の現場では
「どの制度に、どこまで対応すればよいのか分からない」
という声も少なくありません。
本記事では、2025年時点で日本企業が把握しておくべき脱炭素関連の制度・ガイドラインを、公式資料に基づいて整理します。
義務・標準・国際動向を切り分け、事実ベースで全体像を確認することを目的とします。
1. 日本の脱炭素政策の全体像
日本では、政府の中長期的な脱炭素方針として「地球温暖化対策計画」が策定されています。この計画は、温室効果ガス排出量の削減目標や、その達成に向けた基本的な考え方を示すもので、日本全体の気候変動対策の土台となっています。企業活動に直接関係する制度だけでなく、エネルギー政策、産業政策、金融・投資分野まで含めた幅広い施策の前提として位置づけられています。
企業にとって重要なのは、こうした政策が単なる国の方針表明にとどまらず、排出量の把握・算定・報告・開示といった具体的な実務対応につながっている点です。温対法に基づく算定・報告制度、サプライチェーン排出量算定ガイドライン、各種開示フレームワークなど、制度や枠組みは複数存在しますが、共通して「排出量データを根拠を持って管理すること」が求められています。
そのため、脱炭素対応は一部の先進的な企業だけの取り組みではなく、業種や企業規模を問わず、徐々に多くの企業に関係するテーマとなっています。制度ごとに個別対応するのではなく、全体像を把握した上で、共通要素を整理することが実務上の第一歩となります。
なお、脱炭素やカーボンニュートラルの基本概念、背景にある社会的・経済的動向については、
「カーボンニュートラル完全ガイド2025|基礎から最新動向まで」 https://econipass.com/carbon_neutral_guide
でも詳しく解説しています。基礎知識を確認したい方は、あわせてご参照ください。
2. 国内法制度:温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度
温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)
日本では、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」に基づき、一定規模以上の事業者を対象として、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度が運用されています。この制度は、国全体の排出実態を把握し、削減施策の検討や進捗管理に活用することを目的としています。
対象事業者は、自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量を算定し、定められた様式に従って国へ報告します。報告されたデータは国により集計され、事業者名や排出量などが公表される仕組みとなっています。
算定対象となる排出源や算定方法、報告手続きの詳細については、環境省が公表している公式マニュアルで定められており、企業はこれらの資料に基づいて対応する必要があります。
3. 排出量算定の公式ガイドライン
サプライチェーン排出量(Scope1・2・3)算定ガイドライン
環境省および経済産業省は、企業が温室効果ガス排出量を適切に把握するための指針として、「サプライチェーン排出量算定ガイドライン」を公表しています。このガイドラインは、企業活動に伴う排出量を自社単体に限定せず、原材料調達から製品・サービスの提供、使用、廃棄に至るまで、サプライチェーン全体を対象として整理している点が特徴です。
ガイドラインでは、排出量を以下の3つの区分に分けて定義しています。
- Scope1 燃料の燃焼など、自社が直接排出する温室効果ガスを指します。
- Scope2 電力や熱など、外部から購入したエネルギーの使用に伴う間接排出です。
- Scope3 原材料調達、物流、製品使用、廃棄など、サプライチェーン全体に関連するその他の間接排出を対象としています。
算定方法については、活動量データと排出係数を用いた算定が基本とされており、各Scopeごとに対象範囲や算定手順が整理されています。2025年時点では、ガイドラインの最新版に加え、一次データの活用を促す補足資料も公開されており、推計値に依存しすぎない算定精度の向上が重視されています。
なお、Scope1・2・3や温室効果ガス算定に関連する用語の補足については、
「カーボンオフセットとは?~カーボンニュートラルとの違いや基礎解説~」 https://econipass.com/what-is-carbon-offsetts/
もあわせて参照すると理解が深まります。
4. 気候変動・サステナビリティ情報の開示枠組み
TCFD(気候関連財務情報開示)
TCFDは、企業が気候変動によるリスクおよび機会をどのように認識し、経営戦略や財務計画に反映しているかを開示するための国際的な枠組みです。TCFD提言では、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの観点から情報開示を行うことが求められています。日本においても、金融庁や経済産業省がTCFD提言に沿った開示を促進しており、多くの上場企業を中心に対応が進んでいます。
ISSB(IFRS S1 / S2)
ISSBは、国際会計基準を策定するIFRS財団のもとで設立された、サステナビリティ情報開示の国際基準策定機関です。ISSBが公表したIFRS S1およびS2では、企業が投資家に対して開示すべきサステナビリティ情報の共通基準が整理されています。特にIFRS S2では、気候変動に関する情報として、温室効果ガス排出量(Scope1・2・3)の開示が明示されています。
日本版基準(SSBJ)
日本では、ISSB基準との整合性を踏まえたサステナビリティ開示基準が公表されており、金融商品取引法に基づく開示制度との関係を含め、今後の制度対応に向けた検討が進められています。これにより、日本企業においても、国際基準を意識した排出量データの整備と管理がより重要になると考えられます。
5. 海外規制:EUのサステナビリティ開示制度(CSRD)
EUでは、企業のサステナビリティ情報開示を強化するため、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)が導入されています。CSRDは、従来の非財務情報開示制度を拡張・強化するもので、環境・社会・ガバナンスに関する情報を、より詳細かつ体系的に開示することを企業に求めています。
この制度はEU域内企業を主な対象としていますが、一定の条件を満たすEU域外企業や、EU企業と取引関係を持つ企業にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。CSRDに基づく開示では、温室効果ガス排出量の情報に加え、原材料調達や物流などを含むサプライチェーン全体の環境影響についても報告対象とされています。
日本企業にとっては、EU市場での事業展開や、欧州企業との取引を通じて、排出量データや環境情報の提供を求められるケースが想定されます。そのため、海外規制であっても、自社の排出量データを整理し、説明可能な状態で管理しておくことが重要になります。
6. 政策プログラム:GXリーグ・GX-ETS
日本では、脱炭素と経済成長の両立を目指す取り組みとして、GX(グリーントランスフォーメーション)が推進されています。その中核的な枠組みの一つが、経済産業省を中心に進められている「GXリーグ」です。GXリーグは、企業が自主的に脱炭素経営に取り組み、排出削減や情報開示を進めるための枠組みとして位置づけられています。
GXリーグでは、参加企業に対して、温室効果ガス排出量の算定や削減目標の設定、進捗状況の開示などが求められています。これらの取り組みは、法的義務ではなく自主的な参加を前提としていますが、将来的な制度設計や市場メカニズムとの接続を見据えた試行的な位置づけとなっています。
また、GXリーグの取り組みの一環として、排出量取引制度であるGX-ETS(排出量取引制度)の検討・導入が進められています。GX-ETSでは、企業が排出量データを正確に把握し、比較・管理できることが前提となるため、排出量算定やデータ管理の重要性がより高まります。
このように、GXリーグやGX-ETSは、現時点では参加企業が限定されるものの、将来的な脱炭素政策の方向性を示す取り組みとして、企業が動向を把握しておくべき政策プログラムといえます。
7. 制度・基準が違っても共通して求められること
ここまで見てきたように、国内法制度、算定ガイドライン、情報開示基準、海外規制、政策プログラムは、それぞれ目的や対象が異なります。しかし、企業実務の観点で整理すると、共通して求められている要素は大きく変わりません。
具体的には、温室効果ガス排出量を正確に算定し、その算定根拠を明確にしたうえで、継続的にデータを管理し、必要に応じて報告・開示できる状態を維持することです。Scope1・2・3といった区分や、国内外の制度ごとの表現の違いはあっても、基礎となる排出量データの整備が前提となっています。
そのため、脱炭素対応は、特定の制度や要請が出たタイミングで個別対応するのではなく、日常的に排出量データを蓄積・管理できる体制を構築しておくことが重要です。こうした体制があれば、制度改正や新たな開示要請が生じた場合でも、柔軟に対応しやすくなります。
なお、温室効果ガス排出削減の補完策として「カーボンオフセット」の仕組みを解説した記事もあります。具体的な用語やクレジットの基本については、https://econipass.com/carbon-offsetting-basics-and-practices 「カーボン・オフセットの基礎から実践~カーボンクレジットの仕組みや種類も解説~」をご覧ください。
EcoNiPassによる実務支援
こうした背景のもと、排出量データを継続的に管理し、制度対応や開示に活用できる仕組みが求められています。
EcoNiPassは、Scope1・2・3を含むCO₂排出量の算定・可視化や、サプライチェーン全体のデータ管理を支援するサービスとして提供されています。
制度やガイドラインが複雑化する中で、排出量データを一元的に管理し、説明可能な形で活用するための基盤として活用されています。
おわりに
脱炭素対応は、単なる流行ではなく、制度・開示・取引条件として企業活動に組み込まれつつあります。
まずは、どの制度が存在し、何が求められているのかを正しく理解することが、実務対応の第一歩となります。
参考リンク
日本の脱炭素政策・法制度(国内)
- 地球温暖化対策計画(内閣・環境省) https://www.env.go.jp/policy/ondanka/keikaku/
- 温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度(温対法) https://www.env.go.jp/earth/ondanka/santei_kohyo/
- 算定・報告マニュアル https://www.env.go.jp/earth/ondanka/santei_manual/
排出量算定ガイドライン(Scope1・2・3)
- サプライチェーン排出量算定ガイドライン(環境省・経済産業省 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/
- 一次データ活用に関するガイダンス https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/guideline.html
気候変動・サステナビリティ情報開示
- TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース) https://www.fsb-tcfd.org/
- (日本語情報・政府関連) https://www.meti.go.jp/policy/economy/finance/tcfd.html
- ISSB(International Sustainability Standards Board) https://www.ifrs.org/groups/international-sustainability-standards-board/
- IFRS S1 / S2(ISSB基準) https://www.ifrs.org/issued-standards/ifrs-sustainability-standards/
- 日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ) https://www.ssbj.org/ https://www.fsa.go.jp/policy/ssbj/
海外規制(EU)
CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)
- EUR-Lex(EU法令公式データベース) https://eur-lex.europa.eu/
- CSRD概要(欧州委員会) https://finance.ec.europa.eu/capital-markets-union-and-financial-markets/company-reporting-and-auditing/company-reporting/corporate-sustainability-reporting_en
日本の政策プログラム
- GXリーグ(経済産業省) https://gx-league.go.jp/
- GX(グリーントランスフォーメーション)政策全般 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/gx.html



