日本の障害者福祉とサステナビリティ経営:企業価値向上への新たな道筋

■AIによる記事の要約
日本の障害者福祉は、単なる法的義務からESG経営やサステナビリティの中核へと位置づけが変化しています。障害者人口の増加や雇用率の上昇が進む一方、経済的自立や高齢化など課題も残ります。企業にとって障害者雇用はダイバーシティ推進や投資家評価の向上に資する戦略要素であり、環境経営と融合させた取り組みは持続可能な企業価値向上のモデルとして注目されています。
はじめに
日本の障害者福祉は、法制度の整備と企業の意識変革により大きな転換期を迎えています。単なる法的義務の履行から、持続可能な企業価値創造の戦略的要素へと、その位置づけが根本的に変化しているのです。本記事では、日本の障害者福祉の現状を概観し、ESG経営とサステナビリティの観点から企業の障害者活用がもたらす価値について詳しく解説します。
日本の障害者福祉の現状
障害者人口の動向
2022年12月時点での障害者の総数は約1,164万6,000人で、これは日本の総人口の約9.3%に相当します。この数値は5年前の前回調査と比較して24.3%の増加を示しています。
障害種別の内訳は以下の通りです。
- 身体障害者:436万人
- 精神障害者:419万3千人
- 知的障害者:109万4千人
特筆すべきは、前回調査では身体障害者が最多でしたが、精神障害者が57%増で最多となったことです。
障害者雇用の現状
障害者雇用の状況は着実に改善を続けています:
雇用者数・雇用率
- 民間企業に雇用されている障害者の数は67万7,461.5人で前年より5.5%増加し、過去最高を記録
- 民間企業全体での障害者雇用率は2.33%で、過去最高値を更新
法定雇用率の推移
- 2024年4月に法定雇用率が2.5%に引き上げられ、2026年7月には2.7%に引き上げられる予定
- 現状では法定雇用率の対象となる民間企業の約2社に1社が雇用率を達成している状態
障害者総合支援法による福祉サービス
日本の障害者福祉の基盤となる「障害者総合支援法」は、2013年に障害者自立支援法を改正する形で施行されました。
サービス体系
サービスは大きく「自立支援給付」と「地域生活支援事業」の2つに分かれます:
- 自立支援給付
- 介護給付(居宅介護、生活介護など)
- 訓練等給付(就労移行支援、就労継続支援など)
- 相談支援
- 自立支援医療
- 地域生活支援事業
- 都道府県、市区町村が主体となって実施し、地域の実情に応じて定める
主要な課題
経済的自立の困難
障害者雇用率は毎年上がっているものの、就労継続支援B型の平均工賃は月額16,507円と自立には程遠い金額となっており、経済的自立が大きな課題となっています。
高齢化の影響
少子高齢化により、年齢を重ねると身体機能や認知機能が低下し、心身の不自由を訴える方が増加しており、これが障害者人口増加の一因となっています。
サービス利用者の増加
厚生労働省の調べによると、障害福祉サービスの利用者は平成26年から毎年増加傾向にあり、1年単位で見ても平成29年から平成30年の1年間での伸び率は6.4%となっています。
サステナビリティと企業価値向上の観点から見た障害者活用
ESG経営における戦略的な障害者雇用
現代の企業経営において、障害者雇用は単なる法的義務を超えて、持続可能な企業価値創造の重要な要素として位置づけられています。ESGにおける「Social」は、企業が意識的に改善すべき社会問題であり、現在はワークライフバランスの実現や外国人・障害者雇用、ハラスメント対策等がより重視される社会へと変化しています。
投資家評価と企業価値の向上
ESGへの取り組みが進んでいることが社会的責任を果たす優良企業として企業価値を向上させる指標となっており、その指標は投資家からの高い評価にもつながっています。日本のESG投資市場は2019年で336兆円。2015年から12倍に成長しています。
企業のESG関連の取り組みを示す指標は多々ある中で、「障害者雇用比率」は当該企業の社会への感度やダイバーシティ(多様性尊重)への考え方を知るのに有用な指数として、投資家から注目されています。
ダイバーシティ経営によるイノベーション創出
経済産業省では、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義しています。
競争力強化への貢献
「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」というダイバーシティの観点から障害者雇用に取り組むことで、長期的に見れば企業価値の向上に繋がることが明らかになっています。
人材獲得力の向上
障害者の雇用に向けて、障害者が働きやすい環境や体制を整備することで、障害がありながらも意欲や能力(ポテンシャル含む)の高い人材から選ばれやすくなります。また、健常者の採用においても、プラスに働く可能性が高いのです。これは、中途採用の対象となりやすいミレニアル世代が、就職先を決める上で、多様性や受容性の方針を重視しているためです。
SDGsとの連動による社会的インパクト
ESGの「S(社会)」への投資によって、障害者雇用など障害を持つ方のワークスタイルにも関係してくる可能性があり、SDGsの「社会」に関する取組みには、「様々な人が活躍する社会の実現」も含まれています。
最近、企業の障害者雇用が「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」や「サステナビリティ(持続可能性)」の視点から捉えられることが増えてきており、障害者雇用を異なるコンテクストから捉え直すことによって、それらの持つ意味を広げることもできます。
実践事例:弊社ウイングアーク1stの取り組み
カーボンニュートラル推進と障害者雇用の戦略的融合
我々の主業務は、CO2排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass」を提供することで、企業のカーボンニュートラル推進を支援しています。この度、弊社ウイングアーク1st株式会社は企業への障害者雇用サポートを提供する株式会社integと業務提携し、「EcoNiPass」のデータ入力業務代行サービスの提供を開始しました。
この取り組みは、環境経営(E:Environment)と社会課題解決(S:Social)を同時に実現する、まさにESG経営の実践例といえます。CO2排出量可視化プラットフォームの提供と障害者活用は、どちらも企業価値向上において相互補完的な役割を果たしており、投資家や顧客からの評価を高める重要な要素となっています。
integは、障害者も分け隔てなく誰もが互いの違いを尊重し、一体となれる場を創ることを目指し、就労継続支援A型事業所とB型事業所の運営から企業への障害者雇用サポートを提供しています。
サステナビリティ経営の実践
弊社は「Empower Data, Innovate the Business, Shape the Future. 情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。」というコーポレートビジョンのもと、加速度的に増加する知識・情報といったデータの共有・活用によって、地域や年齢、性別、人種などによる制約を受けず、一人ひとりのパフォーマンスを最大化させることが社会課題の解決につながると考えています。
弊社のサステナビリティとは、サービス提供により、ヒトや組織がエンパワーされ、データ駆動型社会を形成し、より良い社会を生み出していく再生的なシステムを創ることです。
企業価値向上における二つの柱
今回の連携により、拠点ごとに必要なEcoNiPassに紐づく各種請求書、領収書の手動でのデータ入力を低コストで外部委託することができ、業務効率化を実現しています。これは単なるコスト削減ではなく、障害者の雇用機会創出と企業の環境経営支援を同時に実現する、持続可能なビジネスモデルの構築といえます。
CO2排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass」の提供は環境面での企業責任を果たすだけでなく、規制対応、リスク管理、新たなビジネス機会の創出を通じて企業価値を向上させます。一方、障害者活用は社会面での企業責任を果たし、多様性によるイノベーション創出、優秀な人材の確保、ステークホルダーからの信頼向上を実現します。
この二つの取り組みは相互に補強し合い、ESG投資の観点から見ても、企業の長期的な成長性と持続可能性を示す重要な指標として評価されています。我々のようにCO2排出量可視化プラットフォームを提供する企業にとって、障害者活用との融合は、より包括的で説得力のあるサステナビリティストーリーを構築し、企業価値の最大化を図る戦略的アプローチなのです。
持続可能な経営への転換
ニューロダイバーシティによる新たな価値創造
障害も多様性の一つ。ダイバーシティ推進に力を入れる三井化学は、障害者雇用も多様性推進の一環としてダイバーシティ推進室が主体となり推進しています。
ニューロダイバーシティとは、脳や神経(ニューロ)に由来するさまざまな「違い」を多様性(ダイバーシティ)と捉えて、互いに尊重し合おうとする考え方で、企業の新たな競争優位の源泉として注目されています。
連帯の理念に基づく企業責任
障害者雇用促進制度を連帯の理念に基づく企業の社会的責任の一つとして積極的に考えれば、ESGの「S」と共通する部分は大きくなるのではないでしょうか。
少子高齢化で労働力が減少する日本においては、企業が持続的に発展するためにも障害者を含めた多様な人が活躍できる環境作りや風土改革が重要になっていきます。
まとめ:未来への道筋
障害者福祉は、法的義務の履行を超えて、ESG経営、ダイバーシティ推進、SDGs達成、そして持続可能な企業価値創造の戦略的要素として、現代企業にとって不可欠な取り組みとなっています。
弊社とintegの取り組みのように、環境経営と障害者雇用を融合させた新しいビジネスモデルは、投資家、消費者、優秀な人材からの評価向上を通じて、長期的な競争優位性の確立につながる重要な経営課題となっています。
企業が真のサステナビリティを実現するためには、障害者の持つ多様性と能力を最大限に活かし、社会全体の持続可能な発展に貢献する「再生的なシステム」の構築が求められているのです。
筆者紹介

EcoNiPass営業・マーケティング責任者
都市銀行勤務を経て、2021年にウイングアーク1st株式会社に入社。現在、データプラットフォーム事業開発部に所属し、パートナー企業との製品連携や協業、新規事業企画を推進。
CO₂排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass」の企画・営業・マーケティング責任者を務める。様々な業種における脱炭素経営の支援をはじめ、企業向け講演、グリーントランスフォーメーション(GX)に関する財務改善提案など、コンサルティング業務を手がける。
【主な企画/講演実績】
- 北九州市様:GX推進コンソーシアムにおけるセミナー登壇、ビジネス企画
県内の約2,000社にEcoNiPass提供する取り組みに参画する。CO2排出量算出を開始する企業に対してセミナーや導入支援を行い、脱炭素化に向けた取り組みを促進するとともに、地域金融機関や教育機関と連携し、新たなビジネスの創出を企画する。
- 東和銀行様:環境セミナーにおけるセミナー登壇、取引先支援
東和銀行様が主催するコンソーシアム約300社に対してEcoNiPassを提供するほか、カーボンニュートラル実現に向けて、CO2排出量算出を開始する企業に対してセミナーや導入支援を行う。現在、群馬県や県内市町村を巻き込んだプロジェクト支援も行う。
(その他実績)
- 長野県信連様:企業価値向上に繋がる脱炭素セミナー登壇
- その他カーボンニュートラルに関するセミナー登壇多数
【主なコンサルティング実績】
- 中小企業50社以上のGHG排出量算定・削減支援
- 中小企業支援機関へのGXコンサル手法伝承
- 大企業向けカーボンフットプリント算定・削減支援
- GHG排出量算出に関する業務改善提案(DX支援)
- SBT認証、エコファースト認証取得に向けてのコンサルティング