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近年、地球温暖化対策の一環として、カーボンニュートラルの実現が求められています。特にCO₂排出量が多い運送業界では、持続可能な社会の構築に向けた取組が急務となっています。政府の環境規制強化や企業の環境意識の高まりを背景に、運送業でも脱炭素化が進められていますが、コストや技術面での課題が依然として存在します。本記事では、運送業におけるカーボンニュートラルの必要性と、それに伴う課題、具体的な解決策、さらには実際の取組事例についてEcoNiPassチームが解説します。
運送業でカーボンニュートラルが求められる背景
地球規模での気候変動対策が重要視される中、各国においてカーボンニュートラルを目指す取り組みが加速していますが、特に運送業はエネルギー消費量が多く、主に化石燃料を使用することによって大量の二酸化炭素(CO₂)を排出しているため、脱炭素化の必要性がますます高まっています。
環境規制の強化
まず、国際的な環境規制の強化が大きな要因となっています。欧州連合(EU)では、「フィット・フォー・55」という政策のもと、2030年までにCO₂排出量を55%削減する目標が掲げられています。また、日本においても「2050年カーボンニュートラル宣言」が発表されており、企業に対する環境対応の要求が厳しくなっており、運送業界もこの流れを無視できず、持続可能な運営のために脱炭素化の取り組みが強く求められるようになっています。
企業の社会的責任(CSR)の高まり
企業の社会的責任(CSR)の重要性が増していることも影響しています。近年、消費者や取引先企業は、環境に配慮した経営を行う企業をより高く評価する傾向が強まっています。そのため、サプライチェーン全体でのCO₂排出削減が求められるようになり、運送業者も取引先の要請に応じて環境対応を進める必要性が高まっています。
燃料価格の高騰とエネルギー転換の必要性
さらに、燃料価格の高騰も無視できない要因です。化石燃料の価格は世界情勢に左右されやすく、価格の高騰は業界全体の経営を圧迫する要因となっています。そのため、電動トラックや水素燃料車の導入など、持続可能なエネルギーへの転換が進められているのです。
このように、運送業におけるカーボンニュートラルの推進は、環境規制の強化、企業の社会的責任の高まり、さらにはエネルギーコストの問題など、さまざまな要因によって不可避の課題となっているのです。
運送業のカーボンニュートラル推進に立ちはだかる課題
現状の物流システムには、電動化のコスト負担、充電・燃料供給インフラの未整備、物流の非効率性、サプライチェーン全体での連携の難しさなど、多くの課題が存在します。
車両の電動化・代替燃料への転換の困難さ
現在の運送業では、ほとんどのトラックがディーゼルエンジンを搭載しており、CO₂を多く排出しています。しかし、これを電動トラックや水素燃料車に置き換えるには、いくつかの課題があります。
- コストの問題:電動トラックや燃料電池トラックは、従来のディーゼル車に比べて高額です。中小の運送事業者にとって、新車両の導入は大きな負担となります。
- 充電・燃料供給インフラの不足:電動トラックを導入するには、充電設備が必要ですが、高速道路の休憩所や物流拠点における充電ステーションはまだ十分に整備されていません。同様に、水素燃料車の場合も、水素ステーションの不足が課題となります。
- 航続距離の制限:電動トラックはバッテリー容量の問題から、長距離輸送には適さない場合があります。バッテリー技術の進化が求められます。
物流効率の最適化の難しさ
また、多様な輸送ニーズに対応するため、配送ルートが複雑になりやすく、効率的な輸送が難しくなっています。
- 積載率の低さ:トラックが満載でない状態で走行すると、無駄なCO₂排出が発生します。特に、小口配送が増えると、積載効率が低下し、環境負荷が高まります。
- 渋滞や待機時間の影響:都市部では交通渋滞が深刻であり、無駄なアイドリングや走行が増加します。また、物流拠点での待機時間も長くなりがちで、燃料消費が増加する要因となります。
サプライチェーン全体での協力の必要性
運送業単体での取り組みだけでは、カーボンニュートラルの実現は困難です。発荷主(荷物を依頼する企業)や受荷主(荷物を受け取る企業)と連携し、輸送の最適化を図る必要があります。しかし、コストやオペレーションの問題から、すべての企業が足並みをそろえて環境対策を進めるのは容易ではありません。
課題に対する具体的なアプローチ
では、このような課題に対応するにはどのような取組が必要なのでしょうか。運送業が上述の課題対して取り組むべき様々なアプローチを、以下に紹介します。
燃料転換の推進と補助金の活用
電動トラックや水素燃料車の導入に向けて、国や自治体の補助金や優遇措置を活用することが有効です。例えば、日本政府は「グリーントラック補助金」などを提供し、環境負荷の少ない車両の導入を支援しています。また、バイオ燃料や合成燃料(e-fuel)といった代替燃料の活用も、カーボンニュートラルへの重要な一歩となります。
物流の効率化とデジタル技術の活用
- ルート最適化システムの導入:AIを活用した配送ルート最適化システムを導入することで、最短距離での輸送が可能になり、CO₂排出量の削減が期待できます。
- モーダルシフトの推進:トラック輸送を鉄道や船舶に切り替えることで、長距離輸送におけるCO₂排出量を削減する取り組みも進んでいます。
- 積載率の向上:複数の企業が共同配送を行うことで、トラックの積載率を高め、効率的な輸送が可能となります。
再生可能エネルギーの活用
運送業者の営業所や倉庫に太陽光発電を導入し、再生可能エネルギーを活用することで、トラックの充電コストを抑えつつ環境負荷を軽減できます。特に、大型物流センターでは、太陽光発電と蓄電池を組み合わせることで、持続可能なエネルギー利用が可能になります。
企業間連携とサプライチェーン全体での取り組み
- エコドライブの推進:ドライバー教育を行い、燃費効率の良い運転を徹底することで、CO₂排出を削減できます。
- カーボンフットプリントの可視化:輸送に伴うCO₂排出量をデータ化し、取引先企業と共有することで、環境負荷の低い輸送方法を選択できるようになります。
- 共同輸送の拡大:企業間での共同配送を進めることで、トラックの台数を削減し、より効率的な物流を実現します。
運送業におけるカーボンニュートラルの推進には、多くの課題が存在しますが、燃料転換、物流効率の向上、再生可能エネルギーの活用、企業間連携など、さまざまなアプローチを組み合わせることで、持続可能な物流システムの構築が可能です。今後、技術の進化や制度の整備が進む中で、運送業界がどのように環境対応を進めていくかが、カーボンニュートラルの実現に向けた鍵となるでしょう。
事例
カーボンニュートラル実現に向け、運送業の様々な企業において多様な取組が行われています。
ヤマト運輸のEVトラック導入
ヤマト運輸は、2030年までに集配用車両の90%をEV化する計画を発表しました。すでに都市部ではEVトラックの運用が進められており、CO₂排出削減に貢献しています。EVの導入により、環境負荷の低減だけでなく、騒音の少ない静かな配送が可能となり、都市部の住環境改善にも寄与しています。さらに、政府の補助金を活用しながら、インフラ整備や運用ノウハウの蓄積を進めています。今後は、地方でのEV導入や充電インフラの拡充が課題となりますが、同社の取り組みは、業界全体の脱炭素化を促進するモデルケースとなるでしょう。
佐川急便の水素トラック活用
佐川急便は、燃料電池トラック(FCV)の試験導入を進め、長距離輸送への適用可能性を検証しています。水素トラックは走行時にCO₂を排出しないため、環境負荷の低減に貢献します。さらに、同社は再生可能エネルギーを活用した水素供給網の構築にも取り組み、持続可能な輸送体制の確立を目指しています。
日本郵便の自動配送ロボット活用
日本郵便は、自動配送ロボットを導入し、ラストワンマイル配送の省エネ化を進めています。小規模な配送業務におけるCO₂排出を削減し、環境負荷の低減に貢献しています。特に、都市部や住宅街での短距離配送に活用することで、従来の配送車両の使用を減らし、エネルギー効率を向上させています。
トラックメーカーのカーボンニュートラル対応
いすゞ自動車や日野自動車などのメーカーも、EV・水素トラックの開発に力を入れています。いすゞはEVトラックの実証実験を進め、都市部での実用性を確認しながら市場投入を計画しています。一方、日野自動車も水素燃料電池トラックの研究を進め、長距離輸送への適用を模索しています。これらの取り組みは、運送業のカーボンニュートラル実現に向けた重要なステップとなるでしょう。
運送業のカーボンニュートラル実現に向けて
運送業におけるカーボンニュートラルの取り組みは、環境負荷の低減にとどまらず、企業の競争力強化やブランド価値向上にも寄与する重要な課題です。運送業はCO₂排出量が多く、脱炭素化の必要性が高まる一方で、コスト負担や技術面での課題が依然として存在します。しかし、技術革新や政策支援、企業間の連携により、着実に前進しています。
特に、電動トラックや水素燃料車の導入、AIを活用した物流の最適化、再生可能エネルギーの活用といった多様なアプローチが進められています。また、政府の補助金活用や、企業間の共同配送などの取り組みも、脱炭素化を促進する重要な要素です。これらを組み合わせることで、持続可能な物流システムの構築が可能となるでしょう。
今後も、環境規制の強化や技術の進化に伴い、運送業のカーボンニュートラル化が一層加速することが期待されます。業界全体が協力し、より効率的かつ環境負荷の少ない物流の実現を目指すことが求められています。
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