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【開催レポート】“脱炭素”はじめの一歩。広島県カーボンニュートラル省エネ支援ガイダンスに参加してきました!

「カーボンニュートラルって、うちにはまだ関係ないかな?」
そんなふうに思っている中小企業の経営者や担当者こそ、知っておきたい内容が満載だったのが、2025年5月22日に開催された「広島県カーボンニュートラル省エネ支援ガイダンス」です。
主催は広島県環境県民局、株式会社電通総研。環境対策の必要性はもちろん、脱炭素が「経営にとってどうプラスになるのか?」という視点に立った、実践的な内容でした。
カーボンニュートラル省エネ支援ガイダンスとは?
このガイダンスは、広島県が掲げる「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて」という目標の一環として、中小企業の脱炭素経営を後押しするために企画されたものです。
ガイダンスでは、県内事業者が取り組める省エネ支援制度の紹介や、現場目線で語られる事例紹介、そして注目の基調講演が行われました。なかでも特に印象的だったのが、電通総研・江口正芳氏による講演です。
江口正芳氏が語る「はじめてのカーボンニュートラル」
江口氏は、企業の脱炭素経営支援に長年携わってきた環境コンサルタント。製造業の現場にも深い知見があり、「脱炭素を“現実のビジネス”としてどう進めるか?」をわかりやすく解説してくれました。
「取り組まないリスク」から始まる
講演の冒頭、江口氏はまず“危機感”から話を始めました。
「カーボンニュートラルに取り組まないと、顧客からの取引停止の恐れが出てきているといったところが一つあります」
大企業の多くはすでに、温室効果ガス排出量の全体(Scope1〜3)を把握し、その削減を求めるようになっています。そうなると、そのサプライヤーである中小企業にも、排出量の算定や開示が事実上“義務”として求められるようになります。
特に注意すべきは、EUで導入が進む「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」や、バッテリー関連の「欧州電池規則」。これらは排出量の報告を怠ると輸出ができなくなる可能性すらある厳しい規制です。
つまり、「何もしない」はリスクになりつつあるのです。
脱炭素はコストではなく、経営の武器になる
次に江口氏が強調したのは、“脱炭素=コスト”という誤解について。
実は、省エネ対策はすぐに利益に直結します。例えば
- LED照明への切り替え → 電気代の即時削減
- コンプレッサの圧力最適化 → 消費動力の10%削減
- 空調・熱源機器の更新 → 燃料費・メンテコスト削減
これらの施策は、脱炭素であると同時に「経費削減の手段」でもあるというわけです。
また、製品カーボンフットプリント(CFP)を明示した提案書を出せば、取引先からの信頼アップにもつながります。さらに、環境意識の高い若手人材から「魅力ある企業」として選ばれるなど、採用面にも効果を発揮することがあるとのこと。
まずは“見える化”から始めよう
では、最初にやるべきことは?
江口氏が強調していたのが、
「まずは自社の排出量を把握すること」。
これは「Scope1・2・3」という3つの視点から整理されます。
- Scope1:自社で直接排出する分(ボイラー燃料、社用車など)
- Scope2:電気や熱の使用に伴う間接排出
- Scope3:原材料調達や物流、廃棄など、サプライチェーン全体の排出
算定式は単純で、「使用量 × 排出原単位」。
例えば、A重油を100kL使ったら、排出量は2.75 × 100 = 275t-CO₂ という具合です。
排出源を工程別や製品別に細かく把握すれば、ムダや改善余地が見えてきます。たとえば金属洗浄工程で旧式の設備を使っていた場合、その更新だけで排出量も燃料費も一気に改善できることがあるのです。
削減手段は3つの視点で考える
では、排出量をどう減らしていくのか?江口氏は、次の3つの柱を軸にすると整理しやすいと話します。
- 省エネ(使う量を減らす)
例:高効率照明、断熱材、設備の稼働時間短縮など - 低炭素エネルギーへの転換
例:太陽光発電、非化石証書の活用、バイオマス導入など - 電化の推進
例:電気ボイラー、EV導入、業務機器の電化など
また、こうした施策は、すでに国や自治体が公開している事例集や診断ガイドを活用すれば、自社に合った方法が見つけやすくなります。
「脱炭素は今こそ始めるべき“経営戦略”」
江口氏は最後にこう締めくくりました。
「今こそカーボンニュートラルに取り組まないと、企業の存続成長は困難になってくるような時代になってきているという風に思います。まずは温室効果ガスの排出量算定から進めるといいかなと思います。また排出量削減は利益確保のための手段ですので、将来のためにも排出量を削減していくというところは重要かと思います。」
江口氏の講演は、カーボンニュートラルが遠い未来の話ではなく、今すぐ取り組むべき経営課題であり、同時に大きなビジネスチャンスであることを、参加者全員に強く印象付けたのではないでしょうか。
今後の展開と、次回ガイダンスのご案内
今回のガイダンスは、情報提供の場にとどまらず、企業が実際に「動き出す」ための支援体制と仕組みも紹介されました。その中心にあるのが、広島県が進める「伴走型省エネ支援」です。
この支援は、「何から始めればいいか分からない」「専門家に相談したい」「補助金を活用したい」といった悩みに対し、段階的に伴走してくれるもの。大きく分けて次の3ステップで構成されています。
ステップ①:CO₂排出量の可視化・省エネ診断
まずはフォーマットに沿って、自社のエネルギー使用状況や排出量を“見える化”。
AIツールの活用により、工程別・設備別に詳細な排出量が把握でき、改善の糸口がつかめます。
ステップ②:省エネ取組計画の策定
見えてきた課題に対して、「どの施策をどのタイミングで導入すべきか?」を整理し、具体的なロードマップを策定。
コストやCO₂削減効果、投資対効果まで試算してもらえるので、経営判断に役立ちます。
ステップ③:補助金申請支援
計画をもとに、活用可能な補助金制度の紹介や申請手続きのサポートも実施。
「申請が面倒そう」と思って手を止めてしまいがちな部分にも、きちんと寄り添ってくれるのが嬉しいポイントです。
なお、支援はどのステップからでも参加可能で、「ちょっと話を聞いてみたいだけ」の段階でもOKとのこと。企業の状況に合わせて柔軟に対応してくれる体制が整っています。
次回ガイダンスのご案内

今回のガイダンスに続き、次回はより実践的なテーマでの開催予定です。
開催日時
2025年6月30日(月)14:00〜16:00
形式
会場開催(TKPガーデンシティPREMIUM広島駅前)・オンライン配信のハイブリッド形式
参加費
無料
登壇者とテーマ
- 末廣 孝信 氏(みずほフィナンシャルグループ CsuO補佐)
「2030年までのGX市況と中小企業の対応(仮)」 - 鈴木 慎太郎 氏(株式会社Green AI 代表取締役)
「脱炭素と経済性を両立する計画策定 〜AIが1700施策から導く最適解〜
申込方法
県の特設ページまたは以下のWebフォームから
今回の講演で感じた“危機感”や“可能性”を、次のステップにつなげるチャンスです。すでに取り組みを進めている企業も、これから検討したい企業も、ぜひ参加をおすすめします。
おわりに:脱炭素は、「経営の選択肢」を増やしてくれる
「カーボンニュートラル」というと、どうしても環境や倫理の話に聞こえがちですが、今回のガイダンスを通じて実感したのは──これは経営の話でもあるということ。
排出量を可視化し、コストを減らし、企業の信頼を高め、未来の市場で選ばれるための一歩。脱炭素は「制約」ではなく、「選択肢を広げる」ための戦略でもあります。
今こそ、自社の足元を見つめ直し、動き出すときかもしれません。
“できるところから、無理なく”始めてみてはいかがでしょうか?