日本の脱炭素関連の法改正と各企業の取り組み~省エネ法・温対法・建築物省エネ法~

昨今、注目されているカーボンニュートラルが日本で本格化したのは2020年以降です。環境問題への関心の高まり​と法規制が盛んになったのもこの時期からです。

本ブログでは、環境問題への関心や取組み意識が高まった世界的な背景についてわかりやすく解説します。

法改正に関連する重要なトピックにパリ協定と国連気候行動サミットがあります。これらで決議された内容を各国が達成するために削減目標を定め、取り組みを強化しています。

2015年パリ協定・先進国と新興国が団結して環境問題へ取り組むことを宣言。​
・各国は国別削減目標(NDC)を設定し、その達成に向けた政策や法改正を始める​
2019年国連気候行動サミット・気候変動と地球温暖化に対する行動を本格化させるために開催された首脳級会合。​
・178カ国・地域の首脳と閣僚が参加し取組強化を図る​
2030年各国の削減目標日本​:2013年度比で46%減​
アメリカ​:2005年度比で50~52%減​
EU​:1990年度比で少なくとも68%減
2050年各国の目標達成・カーボンニュートラルを達成​
・炭素価格制度の導入、技術革新の推進、国際協力の強化を実施することにより、気候変動の影響を最小限に抑える実践の時期

環境規制と日本国内の動向

​2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、各企業での意欲的な取組みが求められていますが企業規模によって取組み状況に差異が生じているのが現状です。​特にノウハウや人員の不足・投資へのコスト面での課題によって着手が遅れている状況です。

Economic Research Bureau CABINET OFFICEが発表している「我が国企業の脱炭素化に向けた取組状況」では上場企業・非上場企業別に、脱炭素化に向けた現時点の対応状況を公表しています。

上場企業では、7割以上の企業が「事業に影響を与える気候変動リスク・機会を把握している」~「排出削減計画を実行している」のいずれかの選択肢を選んでおり、何らかの施策を実行していました。ただし、「排出削減計画を実行している」を選択し、具体的に排出削減に向けた行動に移すことができている上場企業の割合は 43.2%にとどまっています。また、非上場企業については、75.1%の企業が「いずれも該当せず」を選択しており、大半の非上場企業は、脱炭素化に向けた取組に全く着手できていないのが現状であることがわかっています。

回答の詳細は以下の表の通りです。

出典:Economic Research Bureau CABINET OFFICE「我が国企業の脱炭素化に向けた取組状況」

法改正と規制ガイドラインの概要と企業への影響

日本においても脱炭素に関する法改正が行われています。ここでは、特に注目されている3つの法改正についてご紹介します。

省エネ法改正

省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)は、日本のエネルギー効率を向上させ、エネルギー消費の削減を目指す法律です。1979年に制定され、企業や家庭でのエネルギー使用の合理化を促進します。

主な内容は、企業に対するエネルギー管理の義務や、省エネ設備の導入促進、エネルギー消費の実績報告、エネルギー効率基準の設定などです。また、大規模な事業者にはエネルギー使用量の削減計画を提出させ、定期的な監査を行います。これにより、省エネルギーと温暖化対策を同時に推進しています。

2021年に大きく改正が行われ、対象事業者には大きな影響が出る内容に改正されました。省エネ法は、報告義務違反や虚偽報告などを行った場合、50万円~100万円の罰金が科せられますので、正しく理解し、遵守することが重要です。

報告対象内容
特定事業排出者・エネルギー使用量1,500kL/年以上
​​特定輸送排出者・特定貨物/旅客輸送事業者:保有車両トラック200台以上​
・特定荷主:年間輸送量3,000万トンキロ以上

省エネ法の対応で重要なことは以下の5つです。

  • エネルギー使用量の計算
  • 省エネ対策の実施と記録
  • エネルギー管理体制を整備する​
  • 環境省が用意している報告書を記載する​
  • 定期的な施策の見直し

エネルギー使用の計算においてはEcoNiPassのような脱炭素マネジメントシステムを利用することも有用です。省エネ法の対策や環境省への報告書の作成に関しても、環境省のフォーマットに対応できる報告書の作成に役立つレポート機能を提供しているサービスがあり、EcoNiPassでも同機能をご提供しています。

建築物省エネ法

建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)は、建物のエネルギー消費効率を改善し、省エネルギーを推進するための法律です。2015年に施行され、主に新築および既存建築物のエネルギー性能の基準を定めています。

新築建物には、省エネルギー基準を満たすことが義務付けられ、既存建物にも改修時に省エネ基準を適用することが求められます。具体的には、断熱性能の向上や、効率的な冷暖房設備の導入などが推進されています。これにより、建物のエネルギー消費の削減と温室効果ガスの排出削減が目指されています。

建築物分野は日本のエネルギー消費量の約3割を占めており、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては住宅の省エネが欠かせません。​そこで、新築建築物の省エネ基準適合率を引き上げるために建築物省エネ法が改正され、2025年4月の改正建築物省エネ法の施行が決定しています。

対象は原則、全ての住宅・建築物を新築・増改築する際に省エネ基準への適合が義務付けられます。

出典:国交省ホームページ 「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」

今回の改正のポイントは大きく3つあります。

1つ目に基準適合義務の対象が小規模非住宅、住宅に拡大したことがあります。ただし、エネルギー消費性能に及ぼす影響が少ないものとして、政令で定める規模(10㎡を想定)以下のものは除外されることになりました。

2つ目に増改築を行う場合の省エネ基準適合を求める範囲が、省エネ基準適合を求められるのは増改築を行う部分のみになったことがあります。

3つ目に届出義務については、基準適合義務の拡大に伴い廃止されました。今回の改正では、これら3つが押さえておくべきポイントです。

地球温暖化対策推進法

地球温暖化対策推進法は、企業の温室効果ガス排出量の算定と報告を義務化し、世間に公表できるようにした法律のことです。2021年に大きく改正が行われ、対象事業者には大きな影響が出る内容になりました。

本推進法においても報告義務違反や虚偽報告などを行った場合、20万円以下の罰金が科せられますので以下で対応のポイントをご紹介します。

報告対象と内容は以下です。

報告対象内容
​​特定事業排出者・省エネ法の特定事業者など​
・年間原油換算で1,500キロリットル以上のエネルギーを消費する事業者
特定輸送排出者・省エネ法の特定輸送事業者
ガス排出量の対象事業者・21名以上​
・3,000tCO2/年以上

地球温暖化対策推進法の対応で押さえるべきポイントは、以下の4つです。

  • エネルギー使用量とCO2排出量を計算する​
  • 削減目標と計画の策定を行う​
  • 環境省が用意している報告書を記載する(省エネ法の定期報告書の併用は可能)​
  • 定期的な施策の見直し

上記の対応においても、自社の各拠点のCO2排出量のExcelでの算定、集計には莫大な時間がかかりますので、脱炭素マネジメントシステムを活用し、CO2排出量の管理と削減計画策定、報告書対応を実施していくことがおすすめです。

ここからは、各企業が法対応のために具体的に取り組むべき内容ついてご紹介していきます。

脱炭素関連法への対応で各企業が実施すること

脱炭素関連法への対応で各企業が具体的に実施することの事例をご紹介します。

省エネ法への企業の取り組み方法

はじめに、省エネ法における特定事業者のエネルギー使用量についてご紹介します。特定事業者のエネルギー使用量は原油換算値で算出されます。原油換算値は、本社や工場、営業所、店舗など、事業全体で使用する電気、ガス、その他の燃料の熱量(GJ)を合計し、原油換算係数を乗じて算出します。

資源エネルギー庁が公開しているエネルギー消費量(原油換算値)簡易計算表は、各エネルギーの使用量を入力すると設定されている換算係数がかかり、熱量が算出されるようになっています。

抜粋:資源エネルギー庁 「エネルギー消費量(原油換算値)簡易計算表」

温対法への企業の取り組み方法

次に温対法への対応についてご紹介します。

「温対法」とは、正式には「地球温暖化対策の推進に関する法律」のことを指します。この法律は、地球温暖化を防止し、温室効果ガス(CO₂など)の排出を削減することを目的として、日本が採用した法的枠組みです。

日本が直面している地球温暖化問題に対応するため、1997年の京都議定書採択後に制定されました。温暖化を進行させる原因となる温室効果ガスの排出量を減らし、持続可能な社会を実現するために必要な政策や取り組みを推進することを目的としています。

温対法の目的は、温室効果ガスの排出削減、温暖化対策の推進、国際的な温暖化防止の枠組みに積極的に参加すること、温暖化の影響を受ける地域や社会に対して、適切な対応策を講じることの4つがあります。

具体的な取り組みとして、温対法自体は直接的にサプライチェーン全体でのCO2算定を義務付けてはいませんが、企業が温室効果ガス削減に向けた努力を行うために、Scope 1, Scope 2, Scope 3の概念に基づいて、排出量の算定をすることが推奨されています。

Scopeに関するそれぞれの概念は、以下の通りです。

  • Scope 1(直接排出):企業自身が所有する施設や車両などから直接排出されるCO2
  • Scope 2(間接排出):企業が購入した電力や熱などのエネルギーの使用に伴うCO2排出
  • Scope 3(間接排出):サプライチェーン全体での間接的な排出

排出量は、基本的にはScope 1~3の活動量×排出原単位で算定されます。

省エネ法における特定事業者の報告

先に解説した通り省エネ法においては、特定事業者(エネルギー消費が多い大規模な事業者)は、エネルギーの使用効率化を推進するため、エネルギー管理体制を整備し、省エネ計画を策定・実施する義務があります。

また、毎年のエネルギー消費量の実績報告や、省エネルギー対策の進捗報告を行う必要があり、定期的なエネルギー監査を受け、必要に応じて改善措置を講じることが求められます。

報告・提出が必要なものには以下があります。

様式名称摘要提出期限
エネルギー使用状況届出書事業者の前年度のエネルギー使用量が原油換算で1,500kL以上である場合に提出​(既に指定されている事業者は提出不要)5月末日
特定事業者(特定連鎖化事業者)​指定取消申出書事業者が事業を行わなくなった場合、又は年度のエネルギー使用量が1,500kL未満となることが明らかな場合に提出随時
第一種(第二種)エネルギー管理指定工場等指定取消申出書エネルギー管理指定工場等が事業を行わなくなった場合(廃止、移転、譲渡、分社等)、又は年度のエネルギー使用量が3,000kL(第一種)又は1,500kL(第二種)未満となることが明らかな場合に提出随時
エネルギー管理統括者(企画推進者)​選任・解任届出書エネルギー管理統括者(企画推進者)を選任・解任した場合に提出事由が生じた日以降の7月末日
エネルギー管理者(管理員)選任・解任届出書エネルギー管理者(管理員)を選任・解任した場合、事業者がとりまとめて提出(選任・解任数が多い場合、一覧表を添付することも可)事由が生じた日以降の7月末日
中長期計画書事業者全体の省エネ取組及び非化石転換に関する計画を取りまとめて提出、一定の条件で提出が免除される原則毎年度7月末日
定期報告書事業者全体及びエネルギー管理指定工場等のエネルギー使用量等の情報を記載し提出毎年度7月末日

EcoNiPassで行う算定と報告書対応

EcoNiPassは可視化から削減まで一気通貫でカーボンニュートラルの実現を支援しています。ウイングアーク1st株式会社が、CO2排出量可視化プラットフォームサービス「EcoNiPass」提供し、​可視化ができた後はエコパートナーが、削減に向けたご支援を実施します。

EcoNiPassでは、サプライチェーン全体のCO2の算定が標準機能でできます。

また、製造過程における設備から計測したデータ、原単位、毎月使用したエネルギー量、生産数・生産量データを投入することにより積み上げ式のCFP算定が可能なことが特徴です。​各業務担当者に応じてサマリ、製品軸、設備軸のダッシュボードで閲覧、分析をすることが出来ます。

CO2の算定から削減、省エネ法に対応したレポート作成まで脱炭素に関するすべての工程の効率化を支援します。法対応に関するご相談やEcoNiPassの詳細な機能についてはデモンストレーションを交えてご紹介が可能ですのでお気軽にお問い合わせください。

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