近年、気候変動への対応が世界的な課題となる中、各産業においてカーボンニュートラルの実現が求められています。特に建設業は、CO₂排出量が多い産業の一つとされており、環境負荷の低減が喫緊の課題となっています。
しかし、建設業ならではの特性が、カーボンニュートラルの達成を難しくしているのも事実です。多くの工程が関わる建設プロジェクトでは、材料の製造、輸送、施工、廃棄といった各段階で温室効果ガスが排出され、これらを包括的に削減するためのアプローチが必要となります。
本記事では、建設業におけるカーボンニュートラルが求められる背景を整理した上で、業界特有の課題、具体的な解決策、そして先進的な事例について紹介していきます。
1. 建設業でカーボンニュートラルが求められる背景
近年、気候変動対策の一環として、世界的にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)への取り組みが加速しています。各国政府や企業が2050年のカーボンニュートラル実現を目標に掲げる中、建設業においてもその重要性が高まっています。
(1) 建設業が排出するCO2の現状
建設業は、資材の生産・輸送・施工・解体に至るまで、多くのプロセスで二酸化炭素(CO2)を排出する産業です。国際エネルギー機関(IEA)によると、建設業全体のCO2排出量は世界の総排出量の約40%を占めるとされており、その内訳としては建材製造が約10%、建築物の運用が約30%を占めています。特に、鉄やセメントといった主要建材の製造工程では、大量のCO2が発生します。
また、建設現場で使用される重機や運搬車両による燃料燃焼も、CO2排出の一因となっています。さらに、完成後の建物もエネルギーを消費し続けるため、ライフサイクル全体でのCO2排出量を削減することが求められています。
(2) 国際的なカーボンニュートラルの動き
気候変動への対応は国際的な課題であり、多くの国が脱炭素社会の実現を目指しています。特に、2015年の「パリ協定」では、地球の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃以内に抑えることを目標とし、各国は具体的なCO2削減目標を設定しました。
日本も例外ではなく、政府は2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言しています。また、2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減するという中期目標も掲げており、建設業においても具体的な対策が求められています。
(3) 企業や投資家からの圧力
環境への配慮が企業活動の評価基準となりつつある中で、建設業界も環境対応が企業価値に影響を及ぼすようになっています。特に、大手企業はESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点から、サプライチェーン全体の脱炭素化を推進しています。そのため、ゼネコンや資材メーカーなどの建設関連企業は、低炭素建材の採用やエネルギー効率の高い施工方法の導入など、カーボンニュートラルに向けた取り組みを求められるようになっています。
また、政府による環境規制の強化も、カーボンニュートラル実現の推進要因となっています。例えば、日本では「建築物省エネ法」の改正によって、一定規模以上の建築物にはエネルギー消費性能の向上が義務付けられています。
(4) 建設業がカーボンニュートラルを目指す意義
建設業がカーボンニュートラルを目指すことは、環境負荷の低減だけでなく、企業の競争力向上や新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。例えば、環境配慮型建材や再生可能エネルギーの活用が進むことで、新たな市場が生まれる可能性があります。
また、カーボンニュートラルへの取り組みは、企業のブランド価値向上にも寄与します。環境問題への関心が高まる中で、持続可能な建築を提供する企業は、投資家や消費者からの支持を得ることができます。
建設業におけるカーボンニュートラルの推進は、環境負荷の低減のみならず、国際的な規制対応や企業の競争力向上といった観点からも重要な課題となっています。今後は、省エネ技術の導入や再生可能エネルギーの活用、循環型建築資材の普及など、多角的なアプローチが求められます。持続可能な社会の実現に向けて、建設業界全体でのさらなる取り組みが期待されています。
2. 建設業におけるカーボンニュートラル推進の課題
建設業は他の産業に比べてカーボンニュートラルの達成が難しいとされています。その理由として、業界特有の課題が複数存在します。
(1) 建設資材の製造時に発生する大量のCO2
建設業のCO2排出の大部分は、コンクリートや鉄鋼などの建設資材の製造プロセスに起因しています。例えば、セメント製造は石灰石を焼成する際に大量のCO2を排出し、鉄鋼生産では高炉を使用するため多くの化石燃料を消費します。これらの材料なしでは建設が成り立たないため、CO2削減が難しいという課題があります。
(2) 建設現場でのエネルギー消費と排出ガス
建設現場では、重機や発電機が稼働するため、化石燃料の使用によるCO2排出が発生します。特に、大型の建設プロジェクトでは長期間にわたるため、排出量が膨大になります。また、建設機械の電動化や再生可能エネルギーの導入が進んでいるものの、初期コストやインフラ整備の課題が残っています。
(3) 既存建築物のカーボンニュートラル化の難しさ
新築においては、ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の導入などが進んでいますが、既存の建築物の省エネ改修には技術的・経済的な課題が伴います。特に、築年数が古い建物では、断熱改修や設備の更新が必要ですが、多大なコストがかかるため、オーナーの負担が大きくなります。
(4) 建設業界のサプライチェーン全体での連携不足
建設業界では、ゼネコン、サブコン、設計事務所、資材メーカー、施主など多くの関係者が関与します。これにより、サプライチェーン全体でCO2排出量の削減を進めるための情報共有や取り組みの統一が難しいという課題があります。
(5) 高コストと経済的負担
低炭素建材の導入やエネルギー効率の高い技術の採用には多額の投資が必要です。特に、中小規模の建設会社にとっては、資金調達が難しいため、コスト削減とカーボンニュートラルの両立が求められます。
3. 課題に対するアプローチ
これらの課題に対処するために、建設業界ではさまざまな取り組みが進められています。以下に、主なアプローチを紹介します。
(1) 低炭素建材の開発と活用
建設資材のCO2排出削減のために、新たな技術が開発されています。
• 低炭素セメント:石灰石の使用量を減らし、代替材料を活用することでCO2排出を抑える。
• 炭素固定型コンクリート:製造時にCO2を吸収し、建築資材として活用する技術。
• グリーンスチール:水素を活用した製鉄技術により、CO2排出を削減。
• 木造建築の推進:木材は炭素を固定するため、持続可能な建材として注目されている。特に、CLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)技術が発展している。
(2) 建設現場のエネルギー削減と脱炭素化
建設現場でのCO2削減に向け、以下の取り組みが進められています。
• 電動・水素建機の導入:従来のディーゼルエンジンを電動化し、CO2排出をゼロにする。
• 再生可能エネルギーの活用:太陽光発電やバイオマス発電を建設現場の電源として利用。
• ICT・IoTの活用:AIを活用して施工プロセスを最適化し、ムダなエネルギー消費を削減。
(3) 既存建築物のカーボンニュートラル化
• 省エネ改修の推進:高性能断熱材やエネルギー効率の高い設備の導入を支援。
• ZEBの普及:太陽光発電や省エネ技術を組み合わせたゼロ・エネルギー・ビルの促進。
• スマートビルディングの導入:AIを活用し、エネルギー使用の最適化を行う。
(4) サプライチェーン全体での連携強化
• カーボンフットプリントの可視化:建設プロジェクトごとのCO2排出量を数値化し、削減目標を明確にする。
• サプライチェーン全体でのCO2削減目標の共有:関係者間で環境負荷低減のための情報を共有し、統一的な基準を設定。
• 資材の再利用・リサイクル:解体時に発生する資材を循環型建築に活用。
(5) 政府・自治体の支援策の活用
• 補助金・税制優遇:低炭素建材や省エネ改修に対する助成金の活用。
• 規制の強化:環境性能の高い建築物の義務化。
• 官民連携の促進:大学や研究機関と連携し、新技術の開発を支援。
建設業におけるカーボンニュートラルの推進には、多くの課題が存在しますが、それに対応するための技術革新や業界全体での取り組みが進んでいます。低炭素建材の開発、建設現場のエネルギー削減、既存建築物の省エネ改修、サプライチェーン全体での協力が不可欠です。今後、政府の支援や規制強化とともに、業界全体の意識改革が求められるでしょう。
4. 事例
カーボンニュートラルの実現に向け、建設業ではさまざまな取り組みが進められています
(1)竹中工務店の「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)」推進
竹中工務店は、建築物の省エネルギー化と再生可能エネルギーの導入を組み合わせた「ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)」の開発を積極的に進めています。同社が手がけた「竹中技術研究所(大阪)」は、太陽光発電や高効率空調システム、自然換気などを活用し、建物の年間エネルギー消費量を実質ゼロにすることを実現しました。これにより、CO2排出量の大幅な削減が可能となりました。
(2)清水建設の「カーボンネガティブコンクリート」
清水建設は、CO2を吸収する「カーボンネガティブコンクリート」の開発を進めています。このコンクリートは、製造過程でCO2を吸収し、大気中のCO2濃度を低減する効果があるため、通常のコンクリートよりも環境負荷が大幅に低減されます。同社は、この技術を用いたオフィスビルの建設を進めており、今後の普及が期待されています。
(3)鹿島建設の「グリーンスチール」の活用
鹿島建設は、鉄鋼メーカーと連携し、水素を活用した低炭素型の製鉄技術「グリーンスチール」の導入を進めています。鉄鋼生産は建設業のCO2排出の大きな要因ですが、水素を用いることで排出量を削減し、より環境負荷の少ない建設を可能にします。
(4)大成建設の「T-Green® Multi-Sky」
大成建設は、省エネ技術と再生可能エネルギーを活用した「T-Green® Multi-Sky」を開発しました。これは、太陽光発電や蓄電システムを組み合わせたオフィスビル向けのソリューションで、建物のエネルギー自給率を向上させることができます。
5. まとめ
建設業界におけるカーボンニュートラルの実現は、多くの課題を抱えながらも、着実に進められています。低炭素建材の開発、建設機械の電動化、デジタル技術の活用、再生可能エネルギーの導入など、多方面でのアプローチが求められています。今後も、技術革新や政策支援を通じて、より持続可能な建設業の実現に向けた取り組みが加速することが期待されます。
CO2排出量可視化プラットフォーム「EcoNiPass(エコニパス)」はCO₂排出量のリアルタイム可視化、サプライチェーン全体の脱炭素化支援、そしてカーボンクレジットの効率的な管理を可能にすることで、カーボンニュートラルへの取り組みをデジタル技術の活用という点でサポートします。
「EcoNiPass(エコニパス)」を活用し貴社もカーボンニュートラルへの取り組みを始めてみませんか?