カーボンプライシングとは、温室効果ガス(主にCO2)の排出に対して「価格」をつけることで、その排出を減らそうとする仕組みです。地球温暖化を防ぐために、企業や消費者に対して「CO2を出すとお金がかかる」という意識を持たせ、CO2の排出を抑える行動を促しています。
カーボンプライシングには主に2つの方法があり、炭素税と排出量取引があります。
本記事では、それぞれについてわかりやすく解説します。
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炭素税とは
炭素税は、CO2を排出する際にその量に応じて税金を課す制度です。 炭素税の仕組み、目的、導入例は以下です。
化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)を使用するとCO2が排出されます。炭素税は、この化石燃料の使用量や、それによって出るCO2の量に応じて課税されます。たとえば、石油をたくさん使う企業やガソリンをたくさん使う車に税金がかかります。
炭素税の目的は、CO2排出量を減らすことです。税金がかかることで、企業や消費者はCO2を減らそうと努力し、省エネや再生可能エネルギーの利用を促されます。
日本では、2012年から「地球温暖化対策税」として炭素税が導入され、石油や石炭などの化石燃料に課税されています。この税収は、環境対策に使われています。
排出量取引とは
排出量取引はキャップ・アンド・トレードと呼ばれ、CO2排出量に上限(キャップ)を設けその上限内で排出する権利(排出枠)を企業間で取引(トレード)する仕組みのことです。 排出量取引の仕組み、目的、導入例は以下です。
政府が、企業ごとに年間のCO2排出量の上限を決めます。もし企業がその上限を超えるCO2を排出したい場合は、他の企業から「排出枠」を購入する必要があります。一方で、排出量を上限より少なく抑えた企業は、余った排出枠を他の企業に売ることができます。
排出量取引の目的は、企業全体のCO2排出量を管理し、減らすことです。企業がCO2を減らす努力をすることで、排出枠を売って利益を得ることができるため、削減へのインセンティブが生まれます。
欧州連合(EU)は、EU排出量取引制度(EU ETS)を導入し、企業がCO2排出量の取引を行っています。この制度は、世界で最も大規模で成功している排出量取引の一つです。
日本国内外の排出量取引と炭素税導入の動向
近年、海外においては排出量取引や炭素税導入などのカーボンプライシングの動きは活発化しつつあります。以下で主要な地域のカーボンプライシング動向をご紹介します。
海外におけるカーボンプライシングの動向
海外におけるカーボンプライシングの事例をご紹介します。
欧州連合(EU)のカーボンプライシング動向
EU排出量取引制度(EU ETS)が導入されており、世界最大の排出量取引市場です。EUの企業は、この制度を通じてCO2排出量を削減しています。 炭素税も多くのEU加盟国で導入されており、特にスウェーデンでは高い炭素税がCO2削減に寄与しています。
カナダのカーボンプライシング動向
連邦政府が炭素税を導入し、各州も独自のカーボンプライシングを実施しています。これにより、国全体でのCO2排出削減が進められています。
中国のカーボンプライシング動向
世界最大規模の全国排出量取引市場を設立しています。主にエネルギー集約型産業を対象としたカーボンプライシングを実施しています。
日本のカーボンプライシング動向
日本においてもカーボンプライシングの導入や動向が年々注目されてきています。
炭素税の導入状況
近年、日本でも炭素税の導入が検討されています。炭素税はCO2の排出量に対して課税をする制度のことです。日本では、化石燃料に対しCO2排出量1トンあたり289円が地球温暖化対策のための税※として、税率を設けています。
以下で日本での導入状況を解説します。
地球温暖化対策税
日本では2012年10月1日に「地球温暖化対策税」として炭素税が導入されました。 本制度の対象は石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料です。具体的には、燃料を使用する企業や個人に対し、二酸化炭素(CO2)排出量に応じた税金が徴収されます。
税率は、導入当初は段階的に税率が引き上げられ、2016年には最終的にCO2排出量1トンあたり289円になりました。この税収は、再生可能エネルギーの普及や省エネルギーの推進など、地球温暖化対策に使用されています。
地球温暖化対策税の目的と影響
地球温暖化対策税の目的はCO2排出量を抑制し、地球温暖化対策を推進することです。税収は環境関連の政策や技術革新に投資され、長期的な持続可能な経済成長を目指しています。
その影響として、企業や消費者にとって化石燃料の使用を減らすインセンティブとなっています。特に産業界では、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入が進みました。しかし、産業や家庭への経済的負担も課題となっています。
排出量取引の導入状況
日本でも排出量取引の導入が始まっており、以下の地域で導入されています。
東京都排出量取引制度
2010年4月、東京都は日本初の大規模な排出量取引制度を導入しました。 都内の大規模事業所(年間1,500kL以上のエネルギーを消費する施設)が対象で、CO2排出量の上限が設定されました。この上限を超える排出をする場合、他の事業所から排出枠を購入する必要があります。
導入以来、東京都内の多くの事業所が排出量削減に成功しており、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの取り組みが進んでいます。
埼玉県排出量取引制度
2011年4月、埼玉県でも排出量取引制度が導入されました。東京都と連携して運用されており、埼玉県内の大規模事業所が対象です。
全国規模の排出量取引
現在、日本全体での排出量取引制度は導入されていません。しかし、政府は全国規模の排出量取引制度を検討しており、企業や自治体との議論が進行中です。
今後の動向
今後、排出量取引は政策による強化で日本各地でも強化や導入が進むことが予測されています。
排出量取引の政策と目標
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を達成する目標を掲げています。この目標に向けて、炭素税や排出量取引の拡大が重要な政策手段となっています。
また、「グリーン成長戦略」を推進し、再生可能エネルギーの拡大や産業の脱炭素化を進めるために、経済的インセンティブの強化を検討しています。
炭素税の強化
現在、炭素税の税率引き上げや対象の拡大が議論されています。これにより、今後はより多くの企業や個人がCO2排出削減に取り組むことが期待されます。
全国における排出量取引制度
日本政府は全国規模の排出量取引制度の導入を検討しており、企業や自治体と協議を進めています。特に、産業界の脱炭素化を促進するための仕組みとして期待されています。
また、国際的な排出量取引市場との連携や相互承認も視野に入れ、国際的な気候変動対策に貢献することが求められています。
排出量取引のメリット・デメリット
排出量取引にはメリットがある一方で、推進する上でのデメリットもあります。以下でそれぞれご紹介します。
排出量取引のメリット
排出量取引には様々なメリットがあり、以下で3つご紹介します。
1. 環境保護:CO2排出量を減らす強力な手段として、気候変動の影響を軽減し、地球温暖化を防ぐことができます。
2. 技術革新の促進:炭素税や排出量取引により、企業はエネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの利用に投資する動機が生まれます。これが技術革新を促進し、持続可能な経済成長に繋がります。
3. 政府の財源確保:炭素税の収入は政府の財源となり、環境対策や気候変動への対応に使われることが多いです。
排出量取引のデメリット
排出量取引のデメリットとしては主に以下の3つがあります。
1. 経済的負担:炭素税やカーボンプライシングは、企業や消費者にコスト負担を強いるため、特に化石燃料に依存する産業や低所得層には影響が大きくなる可能性があります。これが経済活動を鈍化させたり、物価を押し上げる懸念があります。
2. 競争力の低下:カーボンプライシングを導入していない国に比べて、炭素税を課している国の企業は国際競争力が低下するリスクがあります。これにより、製品の価格が上昇し、輸出が減少する可能性があります。
3. 政策の複雑さ:炭素税や排出量取引制度は、導入と管理が複雑であり、制度が複雑すぎると企業や消費者が理解しづらくなる可能性があります。
まとめ
カーボンプライシング、炭素税、排出量取引は、地球温暖化を防ぐためにCO2排出を減らすための重要なツールです。これらは多くの国で採用されており、環境保護と経済活動のバランスをとりながら、持続可能な社会を目指すための手段として活用されています。一方で、経済的負担や国際競争力の低下などの課題もあるため、政策設計には慎重な配慮が必要です。