【2026年度最新版】Scope3排出量における1次データ活用:企業の削減目標達成を実現する戦略

■AIによる記事の要約
Scope3排出量削減には、業界平均などの2次データではなく、サプライヤーから直接取得する1次データの活用が鍵となります。1次データを用いることで、サプライヤーの削減努力が自社排出量に反映され、SBT達成に向けた具体的な戦略立案が可能になります。製品ベースと組織ベースの手法を使い分け、重要取引先から段階的に導入することが現実的です。環境省ガイドラインも、実務的かつ段階的な活用を推奨しています。
目次
はじめに
企業が気候変動対応として設定するScope3排出量削減目標の達成は、現在のビジネスにおいて避けられない課題となっています。しかし、従来の算定方法では削減効果が目に見えにくく、サプライヤーの協力も得られにくいという課題を抱えていました。その解決策として注目を集めているのが、サプライヤーから直接得た1次データを活用した排出量算定方法です。本記事では、環境省が2025年3月に発表したガイドラインに基づき、1次データ活用の重要性と実践方法を解説します。
Scope3排出量とは:企業の間接排出を正確に把握することの重要性
サプライチェーン排出量は、Scope1(直接排出)、Scope2(エネルギー起源間接排出)、Scope3(その他の間接排出)の3つに分類されます。このうちScope3は、自社の事業活動に関連するサプライヤーや顧客の排出量を含む、最も大きな排出源となる場合が多いです。
多くの企業にとってScope3排出量はScope1・2の合計を上回り、2030年のカーボンニュートラル達成に向けた削減目標を設定する際には、Scope3排出量全体の3分の2をカバーする削減目標を立てることが求められています。これは、SBT(Science Based Targets)の認定要件としても位置付けられています。
にもかかわらず、Scope3排出量の削減は難易度が高いとされる理由があります。それは、従来の算定方法における重大な課題にあるのです。
従来の算定方法(2次データ利用)の課題:削減努力が反映されない
Scope3排出量の算定式は単純です:排出量=活動量×排出原単位
従来、この排出原単位として採用されてきたのは、2次データ(業界平均値等のデータベース)です。環境省の排出原単位データベースやIDEAなどが典型例です。
しかし、2次データを使用し続ける場合、深刻な問題が生じます。
2次データの3つの課題
1. サプライヤーの削減努力が反映されない
複数のメーカーが同一製品を製造する場合を想像してください。メーカーAが省エネ設備を導入して排出量を大幅削減しても、メーカーBが何もしなくても、2次データでは同じ排出原単位が適用されます。つまり、メーカーAの削減努力が貴社のScope3排出量に一切反映されないのです。
2. 削減目標の達成が極めて困難
2次データでの削減は、事実上「活動量を減らす」以外に方法がありません。調達量を削減する、輸送手段を変更するなど限定的な選択肢しか残されていないため、企業の成長とともに排出量は増加し続けます。
3. サプライヤーエンゲージメントが機能しない
サプライヤーに対して排出削減目標の設定や削減対策の実施を要請しても、その成果が貴社の排出量に反映されなければ、サプライヤー側の削減モチベーションは生まれません。
1次データの定義と重要性:サプライヤー固有のデータを活用する
1次データとは、GHGプロトコルにおいて「企業バリューチェーン内の固有活動からのデータ」と定義されています。サプライヤーから直接提供を受けた排出量データが該当します。
2次データとの最大の違いは、各サプライヤー固有の排出原単位が反映されるという点です。これにより、以下のメリットが生まれます。
1次データのメリット
メリット1:削減努力の可視化
サプライヤーの排出削減努力が、貴社のScope3排出量に直結します。省エネ設備の導入、製造プロセスの改善、再生可能エネルギーの導入といった具体的なアクションが数値として現れます。
メリット2:複数の削減手段の確保
調達量の削減に加え、以下の選択肢が生まれます:
- より低排出なサプライヤーへの切り替え
- 経年での排出原単位削減率が高いサプライヤーの選定
- サプライヤーとの協力による共同の削減計画策定
メリット3:SBT達成の現実化
削減目標を達成するための具体的なロードマップが描けるようになります。
メリット4:社会全体での削減効果
1次データ活用企業が増加することで、サプライチェーン全体で削減インセンティブが機能し、社会全体のネットゼロ達成に向けた波及効果が生まれます。
1次データの種類:製品ベースと組織ベースの使い分け
1次データには、大きく分けて2つの種類があります。自社の状況に応じて、適切なアプローチを選択することが重要です。
製品ベース排出量データ
定義:特定製品のCradle-to-Gate(原材料調達から生産まで)排出量データ
特徴:
- カーボンフットプリント(CFP)やPCF(Product Carbon Footprint)と同じ概念
- 製品固有性が高く、最も精度の高いデータ
- ISO14067やGHGプロトコル Product Standardなどに基づいて算定
メリット:対象製品に関わるデータのため、最高レベルの精度を実現
デメリット:算定ハードルが高く、サプライヤーが提供できない場合が多い
活用場面:業界内でCFP算定が普及している業種(電子機器、化学品など)
組織ベース排出量データ
定義:サプライヤーの組織レベルで算定されたScope1,2,3排出量を、売上金額などで配分したデータ
特徴:
- サプライヤーの全社排出量から、貴社への納入分を計算
- 配分ロジック(売上金額ベース、物量ベースなど)に基づいて切り出す
メリット:Scope1,2,3を算定する企業が増加しており、比較的入手しやすい
デメリット:関係ない製品の排出量が混入する可能性があり、精度が製品ベースより低い
活用場面:複数製品を扱うサプライヤーから、当面のデータを入手する際の現実的な選択肢
1次データ活用の実践的なステップ
では、実際にどのように進めるべきでしょうか。環境省ガイドに基づいた実践的なプロセスをご紹介します。
ステップ1:活用対象項目の選定
すべてのサプライヤーから1次データを得ることは現実的ではありません。以下の基準で優先順位を付けます:
- 排出量に占める割合:Scope3全体の80%をカバーするサプライヤーを特定
- 支出額の大きさ:総支出の80%を占める上位のサプライヤーから開始
- データ入手可能性:既にCFPやScope1,2,3を算定済みのサプライヤーを優先
実例:
メーカーXが4社のサプライヤーから部品を購入している場合、支出額が大きい上位2社に対して1次データ提供を依頼することが現実的です。残り2社については、当面2次データで対応し、段階的に1次データへ移行します。
ステップ2:サプライヤーからのデータ収集
製品ベース排出量データの場合:
- Cradle-to-Gateの排出量データを単位あたり(t-CO2e/t、t-CO2e/個など)で取得
- CFP、PCFなどの形式でサプライヤーが既に算定していないか確認
組織ベース排出量データの場合:
- サプライヤーのScope1,2,3排出量全体を取得
- 貴社への納入分を売上金額で配分(配分ロジック:サプライヤー全社排出量×貴社との取引額÷サプライヤー総売上高)
ステップ3:データ品質の確認
入手した1次データについて、以下の補足情報を可能な限り収集します:
- 保証・検証の有無:第三者検証を受けているか
- バウンダリの確認:Cradle-to-Gateになっているか
- 算定基準:どのスタンダードに基づいているか
- 算定対象期間:貴社の算定期間と一致しているか
- 1次データ比率:サプライヤーの算定にどの程度1次データが使用されているか
ステップ4:排出量の算定
製品ベース活用の場合:
排出量 = 調達量(t) × サプライヤー提供排出原単位(t-CO2e/t)
組織ベース活用の場合:
排出量 = 取引額(百万円) × サプライヤー排出原単位(t-CO2e/百万円)
= 取引額 × (サプライヤー全社排出量 ÷ サプライヤー総売上高)
データ品質確保のための考え方
1次データの活用において、多くの企業が懸念するのが「データ品質」です。しかし、現時点でGHGプロトコルは、1次データの第三者保証・検証を必須としていません。
むしろ重要なのは、以下のアプローチです:
段階的な改善:初めから完璧なデータを揃える必要はありません。補足情報が不十分であることを理由に1次データ活用を断念するのではなく、入手できるデータから始め、経年で補足情報を増やしていく考え方が重要です。
エンゲージメントを通じた関係構築:サプライヤーに説明会を開催したり、必要に応じた支援を提供したりすることで、データ提供へのハードルを段階的に低下させることができます。
前年度比較による検証:前年度の同一サプライヤーデータとの比較を行い、著しい乖離がないか確認することも有効です。
組織全体での削減効果:社会全体への波及
1次データ活用の重要性は、個社の削減に止まりません。複数企業が1次データ活用に取り組むことで、以下の社会的インパクトが生まれます:
- 削減インセンティブの連鎖:排出削減企業への発注増加が、サプライヤーの削減モチベーション向上につながる
- 上流への波及:サプライヤー自身が上流のサプライヤーに対して1次データ活用を要請し、チェーン全体で削減が進む
- 業界標準の形成:Green × Digital コンソーシアムのCO2可視化フレームワークなど、データ共有基盤が整備される
- グローバル対応:PACT(Partnership for Carbon Transparency)のPathfinder Frameworkなど、国際基準への対応が可能になる
今後の動向:法制度化に向けた準備
2025年3月現在、以下の重要な動きが進行しています:
SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準化:日本におけるサステナビリティ情報開示基準に、1次データの優先使用が明記されました
IFRS S2への対応:国際サステナビリティ基準でも、1次データの使用が推奨されています
金融庁の開示義務化検討:サプライチェーン排出量の開示義務化が検討されており、時価総額の大きな企業から適用される予定です
GHGプロトコルの改定:より厳格で実効性のある排出量算定・報告基準が策定中です
まとめ:1次データ活用は、Scope3削減の必須条件
Scope3排出量の削減は、決して企業の単なる環境配慮ではなく、ビジネスの持続可能性そのものに関わる課題です。2次データを使用し続けている限り、削減目標の達成は極めて困難です。
1次データ活用には、初期段階でのハードルがあります。しかし、段階的にアプローチを進め、重要なサプライヤーから始める、簡易な組織ベース排出量データから開始するなど、現実的な戦略を採用することで、着実に進めることができます。
環境省ガイドラインは、こうした実務的なアプローチを体系的に示しています。貴社のサプライチェーン排出量削減に向けた第一歩として、本ガイドラインの活用を強くお勧めします。
出典:環境省『1次データを活用したサプライチェーン排出量算定ガイド』Ver.1.0(2025年3月)(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/tools/1ji_data_v1.0.pdf)



