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【簡単解説シリーズ】インターナルカーボンプライシング(ICP)とは?導入・計算方法を、企業の事例とともに紹介!

■AIによる記事の要約

 インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が自社のCO₂排出に社内で独自の価格を設定し、投資判断や経営戦略に反映させる仕組みです。政府の炭素税などと異なり、法的強制力はなく自主的に導入されます。導入により、低炭素投資の促進、気候リスクの可視化、ESG評価の向上が期待されます。一方で、価格設定の難しさや社内の反発といった課題もあります。実際には「シャドープライス」や「社内炭素税」などの形式で運用され、多くの企業が導入効果を実感しています。

 インターナルカーボンプライシング(Internal Carbon Pricing:ICP)とは、企業が自社の事業活動に伴う温室効果ガス排出量に対して、社内で独自に炭素価格を設定する仕組みです。簡単に言えば、「CO₂排出量に社内で値段をつける」取り組みといえます。

 環境省の定義によると、ICPは「企業等が独自に社内で炭素に価格付けをし、低炭素投資・対策を推進する仕組み」とされています。企業は、この仕組みを通じて排出量削減の意思決定を促進し、低炭素技術への投資判断や経営戦略に組み込むことができます。ICPの主な目的は以下の通りです。

  1. 気候変動リスクの可視化
  2. 低炭素投資の促進
  3. ステークホルダーへの対応強化
  4. 将来の炭素規制への備え

 経済産業省の「TCFDガイダンス3.0」によれば、ICPは気候変動対応の成熟度を高める重要なツールとして位置づけられています。

出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン Ver.2.0」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/ICP_guideline_rev.pdf

 ICPと混同されがちな「カーボンプライジング」ですが、両者には明確な違いがあります。

 「カーボンプライジング」は、政府や公的機関が実施する炭素価格付けの制度であり、主に炭素税や排出量取引制度(ETS)などが含まれます。これは法的拘束力を持ち、対象となる企業や組織に対して強制力を持つ政策です。一方、「インターナルカーボンプライシング」は、企業が自主的に社内で実施する取り組みであり、法的強制力はありません。企業の経営判断や投資決定に影響を与えることを目的としています。

 世界銀行の「State and Trends of Carbon Pricing 2024」によると、世界では70を超える国と地域でカーボンプライシングが導入されていますが、ICPはさらに多くの企業で自主的に採用されています。

 両者の主な違いは以下の通りです。

カーボンプライジングとインターナルカーボンプライシングの違い

                                                                                                                                           
制度の違いに関する比較
項目カーボンプライジングインターナルカーボンプライシング
実施主体政府・公的機関企業(自主的)
強制力法的拘束力ありなし(社内ルール)
目的社会全体の排出削減企業内の意思決定改善
形態炭素税、排出量取引などシャドープライス、社内炭素税など

出典:World Bank「State and Trends of Carbon Pricing 2023
https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/39851

メリット

  1. 投資判断の合理化:低炭素投資の経済性評価に炭素価格を組み込むことで、将来的なリスクを考慮した合理的な意思決定が可能になります。例えば、初期投資額が高くても、炭素価格を考慮すると長期的には経済合理性がある設備投資を選択できます。
  2. 気候変動リスクの可視化CO₂排出量を金銭価値で評価することで、気候変動リスクを経営層やステークホルダーにとって分かりやすく可視化できます。
  3. 競争力の維持・向上:将来の炭素規制強化に先んじて対応することで、規制リスクへの耐性を高め、変化する市場環境での競争力を維持できます。
  4. ESG評価の向上:CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)などの評価において、ICPの導入は高評価につながる要素となっています。
  5. 社内の意識改革促進:排出量に価格をつけることで、社員の環境意識を高め、全社的な脱炭素への取り組みを加速できます。

 経済産業省の調査によると、ICPを導入した企業の約80%が「投資判断の改善」を実感しているというデータもあります。

出典:経済産業省「TCFDガイダンス3.0」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/disclosure.html

デメリット

  1. 適切な価格設定の難しさ:炭素価格の設定に明確な基準がなく、低すぎれば効果が薄く、高すぎれば事業活動に過度な制約をかける恐れがあります。
  2. 導入・運用コスト:排出量の正確な測定や価格設定の検討、社内制度の構築など、初期導入と継続的な運用にはコストがかかります。
  3. 短期的な収益への影響:特に社内炭素税タイプのICPでは、短期的には収益性が低下する可能性があります。
  4. 社内の抵抗:新たな制約として捉えられ、部門間での反発や摩擦を生む場合があります。
  5. 効果測定の難しさ:ICPの導入効果を定量的に評価することが難しく、投資対効果の説明が困難な場合があります。

 日本LCA学会の研究によれば、ICPの効果を最大化するためには、単なる制度導入だけでなく、全社的な理解と協力体制の構築が不可欠とされています。

出典:日本LCA学会誌「企業の脱炭素経営における内部炭素価格の役割と課題」
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ilcaj

 環境省は、企業のICP導入を支援するため、2018年に「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」を公表し、2022年に改訂版(Ver.2.0)を発表しました。このガイドラインは、ICPの基本的な考え方から導入手順、活用方法まで包括的に解説しています。

 ガイドラインの主な内容は以下の通りです。

  1. ICPの概念と目的
  2. 導入のステップと計画立案方法
  3. 排出量算定方法とスコープの考え方
  4. 炭素価格の設定アプローチ
  5. 運用方法と効果測定
  6. 国内外の導入事例

 特に注目すべき点として、ガイドラインではICPの3つの主要な実施方法を紹介しています。

  • 「シャドープライス(仮想的な価格)」
    投資判断時にCO₂排出コストを考慮する方法
  • 「社内炭素税」
    実際に社内で排出量に応じた課金を行う方法
  • 「社内排出量取引」
    社内で排出枠を設定し、部門間で取引する方法

 環境省のガイドラインは、初めてICPを導入する企業にとって非常に参考になる資料であり、具体的な計算例や事例も豊富に掲載されています。

出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン Ver.2.0」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/ICP_guideline_rev.pdf

 ICPの計算方法は、主に以下の3つのステップで構成されます:

①CO₂排出量の算定

 まず、対象となる活動のCO₂排出量を計算します。基本的な計算式は以下の通りです。

CO₂排出量(t-CO₂) = 活動量 × 排出係数

 例えば、電力使用の場合、

CO₂排出量(t-CO₂) = 電力使用量(kWh) × 電力会社の排出係数(t-CO₂/kWh)

となります。

②炭素価格の設定

 炭素価格の設定方法には、主に以下の4つのアプローチがあります。

  • 「市場価格アプローチ」:既存の炭素市場価格(EU-ETSなど)を参照
  • 「限界削減費用アプローチ」:削減対策コストから逆算して設定
  • 「社会的費用アプローチ」:炭素の社会的費用(SCC)を基に設定
  • 「目標整合アプローチ」:企業の削減目標達成に必要な価格を設定

③内部炭素価格の計算

 設定した炭素価格と排出量をかけ合わせることで、内部炭素価格を計算します。

内部炭素コスト = CO₂排出量(t-CO₂) × 炭素価格(円/t-CO₂)

 例えば、年間1,000トンのCO₂を排出する事業に対して、炭素価格を5,000円/t-CO₂と設定した場合

内部炭素コスト = 1,000 t-CO₂ × 5,000円/t-CO₂ = 500万円

この計算結果をもとに、投資判断に反映したり(シャドープライス方式)、実際に課金したりします(社内炭素税方式)。日本政策投資銀行の調査によると、日本企業の多くはシャドープライス方式を採用しており、その約6割が投資判断基準の変更につながったと報告しています。

出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用に関する調査報告書」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc

 世界や日本企業で採用されているICP価格は多様であり、業種や企業の削減目標、導入目的によって大きく異なります。以下に、代表的な価格帯と採用事例を紹介します。

世界の動向

 CDPの2023年の調査によると、グローバル企業が設定するICP価格の範囲は以下の通りです。

世界におけるICP価格設定の傾向(CDP調査)

                                                                                                                                           
グローバル企業のICP価格設定分布
価格帯割合代表的な採用企業
$1-10/t-CO₂20%
$11-40/t-CO₂37%マイクロソフト ($15)
$41-80/t-CO₂28%ユニリーバ ($50)
$81以上/t-CO₂15%シェル ($100)

日本企業の動向

 環境省の調査によると、日本企業のICP価格設定は比較的低めの傾向があります。

日本企業におけるICP価格設定の傾向(環境省調査)

                                                                                                                                                                     
日本企業のICP価格分布と事例
価格帯割合代表的な採用企業
1,000円未満/t-CO₂15%
1,000-3,000円/t-CO₂42%日本郵船 (3,000円)
3,001-5,000円/t-CO₂25%住友化学 (5,000円)
5,001-10,000円/t-CO₂13%武田薬品 (10,000円)
10,001円以上/t-CO₂5%丸井グループ (30,000円)

 注目すべき点として、科学的根拠に基づく削減目標(SBT)達成を目指す企業では、より高い価格設定を採用する傾向が見られます。また、国際競争にさらされている企業ほど、海外の動向を意識した価格設定を行っている傾向があります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によれば、2℃目標達成には2030年までに$100-200/t-CO₂程度の炭素価格が必要と試算されており、今後さらなる価格上昇が予想されます。

出典:CDP「Putting a Price on Carbon: The State of Internal Carbon Pricing 2023」
https://www.cdp.net/en/research/global-reports

 ICPの導入は、企業の状況や目的に合わせて段階的に進めることが重要です。以下に、効果的な導入ステップを示します。国立環境研究所の研究によれば、ICPの効果を最大化するためには、単なる制度導入だけでなく、継続的な改善サイクルの構築が不可欠とされています。

ICP導入ステップ(詳細付きフローチャート)

 
   

1. 目的の明確化

   
         
  • 投資判断の改善
  •      
  • 排出削減の促進
  •      
  • リスク管理の強化
  •      
  • ESG評価の向上
  •    
 
 
   

2. 対象範囲の設定

   
         
  • 温室効果ガスの種類の選定
  •      
  • 排出スコープ(Scope 1〜3)の選定
  •      
  • 導入対象の部門・事業を決定
  •    
 
 
   

3. 炭素価格の設定

   
         
  • 市場価格・限界削減費用など4つのアプローチを活用
  •      
  • 段階的アプローチで価格を引き上げ
  •    
 
 
   

4. 運用体制の構築

   
         
  • 責任部署と担当者を明確化
  •      
  • 排出量の計測・報告体制を整備
  •      
  • 資金の使途決定と承認プロセス構築
  •    
 
 
   

5. モニタリングと改善

   
         
  • 排出削減効果を測定
  •      
  • 投資判断への影響を分析
  •      
  • 社内理解度の把握
  •      
  • 外部環境変化に応じ価格を見直し
  •    
 

出典:経済産業省「カーボンニュートラル経営ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/carbon_neutral_management_guideline.html

 国内外の先進企業によるICP導入事例を紹介します。各社の特徴的な取り組みから、効果的な導入のヒントを得ることができます。

海外企業の事例

1. Microsoft(マイクロソフト)

  • 導入時期:2012年
  • 価格:$15/t-CO₂(約1,650円)
  • 特徴:社内炭素税方式を採用し、各部門から徴収した資金を再生可能エネルギー投資に活用
  • 成果:2030年までのカーボンネガティブ達成に向けた基盤構築

2. Shell plc(シェル)

  • 導入時期:2000年
  • 価格:$40-100/t-CO₂(約4,400-11,000円)
  • 特徴:投資判断にシャドープライスを活用し、段階的に価格を引き上げ
  • 成果:低炭素プロジェクトへの投資が約30%増加

日本企業の事例

1.三菱UFJフィナンシャル・グループ

  • 導入時期:2021年
  • 価格:3,000円/t-CO₂(将来的に10,000円まで引き上げ予定)
  • 特徴:融資・投資判断において、CO₂排出量の多いプロジェクトの収益性を再評価
  • 成果:低炭素事業への融資比率が増加

2.丸井グループ

  • 導入時期:2019年
  • 価格:30,000円/t-CO₂
  • 特徴:社内炭素税を導入し、収益に対して約3%のインパクトを持つ高価格を設定
  • 成果:店舗のLED化100%達成など、具体的な削減施策を加速

3.住友化学

  • 導入時期:2018年
  • 価格:5,000円/t-CO₂
  • 特徴:設備投資の経済性評価にシャドープライスを活用
  • 成果:エネルギー効率の高い設備への投資判断が変化

4. コニカミノルタ

  • 導入時期:2020年
  • 価格:5,000円/t-CO₂
  • 特徴:新製品開発におけるLCA(ライフサイクルアセスメント)にICPを組み込み
  • 成果:製品ライフサイクル全体でのCO₂排出削減を促進

 経済産業省の調査によると、ICPを導入している企業は、そうでない企業と比較して約1.5倍の炭素生産性(売上高/CO₂排出量)向上を達成しているとされています。

出典:環境省「インターナルカーボンプライシング活用先進事例集」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc

 インターナルカーボンプライシング(ICP)は、企業が自らのCO₂排出に社内価格を設定することで、脱炭素経営の実効性を高める有力な手段です。

 以下に、実務担当者が押さえるべきポイントと導入アクションを整理します。

ICPの活用ポイント

  1. 形態:主にシャドープライス(投資判断用)と社内炭素税(課金型)
  2. メリット:投資判断の合理化、リスクの可視化、ESG評価の向上など多岐にわたる
  3. 価格設定:日本では1,000〜5,000円/t-CO₂が主流、グローバルでは$40〜100/t-CO₂の動きが顕著
  4. 導入効果:炭素生産性の向上や低炭素技術投資の加速などの成果が報告されている

導入に向けたアクションステップ

  • 目的の明確化:経営戦略への統合を目的とした導入を推奨
  • スモールスタート:Scope 1・2からの段階的導入が現実的
  • 社内啓発活動:全社的な理解促進が制度の成功に不可欠
  • モニタリング体制:PDCAのサイクルで継続的な改善を図る

 たとえば、三菱UFJフィナンシャル・グループでは段階的な価格引き上げを採用し、効果的なリスク管理と投資判断の改善を両立しています。こうした実例を参考に、自社の経営方針や事業構造に合わせたICPの導入設計を進めることが求められます。

 今後、国際的な炭素価格の高騰が予想される中、ICPは単なる環境対策ではなく、経営のレジリエンスを高める戦略的な投資判断ツールとしての役割を果たしていくと考えられます。

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