【簡単解説シリーズ】「脱炭素」の意味とは?脱炭素社会に向けた企業や経営者の取り組みを紹介

脱炭素・脱炭素社会の基礎知識
脱炭素の意味・定義
脱炭素(英語:decarbonization)とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを指します。これは地球温暖化の抑制を目的としており、排出された温室効果ガスの削減や吸収を通じて達成されます。日本政府は2050年までに脱炭素社会の実現を目指しています。
参考文献:
環境省「地域脱炭素とは」 https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/chiiki-datsutanso/
脱炭素先行地域とは?意義とメリットから選定評価や補助金まで解説 https://green-transformation.jp/media/decarbonization/055/
脱炭素社会の意味
脱炭素社会は、二酸化炭素を含む温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す社会です。地球温暖化の抑制が目的であり、再生可能エネルギーの利用促進や低炭素型の経済構造への移行が重要な要素となります。日本政府は2050年までの実現を宣言しています。
参考文献:
環境省「脱炭素ポータル」https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
国土交通省「脱炭素社会に向けた動向」https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r03/hakusho/r04/html/n1111000.html
脱炭素を目指す理由
脱炭素を目指す理由は、地球温暖化による気候変動の抑制と持続可能な社会の実現にあります。温室効果ガスの増加は異常気象や自然災害を引き起こし、生態系や人々の生活に深刻な影響を与えるため、排出削減が急務とされています。また、政府では以下の施策によって脱炭素社会実現を目指しています。
再生可能エネルギーの拡大
日本政府は太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの導入を進めています。特に洋上風力発電の拡大と蓄電池やスマートグリッドの導入が重点施策として挙げられます。
電動車の普及促進
電動車(EV、PHEV、FCVなど)の普及を目指し、補助金や減税措置を拡充しています。また、充電インフラや水素ステーションの整備も進められています。
企業の脱炭素投資支援
グリーン成長戦略に基づき、企業が再生可能エネルギーや脱炭素技術を導入する際の補助金や税制優遇措置を提供しています。さらに、カーボンプライシング導入も検討されています。
地域脱炭素ロードマップ
国と地方が連携し、地域特性に応じた脱炭素施策を推進しています。2030年までに少なくとも100カ所以上の「脱炭素先行地域」を創出する計画です。
参考文献:
環境省「地球温暖化対策計画」https://www.env.go.jp/policy/ondanka/roadmap.html
脱炭素の類語
ゼロカーボン
ゼロカーボンとは、温室効果ガスの排出量が実質ゼロになった状態を指します。カーボンニュートラルと同様の意味で使われることが多く、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と吸収量がバランスした状態を表現しています。企業や自治体、国などが温室効果ガスの排出をゼロにする、あるいは排出量と同量を吸収・除去することで正味ゼロを目指す取り組みのことです。
出典元:
環境省「脱炭素ポータル」 https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
脱炭素スコープ(Scope 1, 2, 3)
脱炭素スコープとは、企業などの組織が排出する温室効果ガスを分類するための国際的な基準です。GHGプロトコル(温室効果ガスプロトコル)によって定義されており、以下の3つのカテゴリーに分けられます:
- Scope1: 企業が直接排出する温室効果ガス(自社の工場や事業所での燃料燃焼、社用車からの排出など)
- Scope2: 企業が購入したエネルギー(電気・熱・蒸気など)の使用に伴う間接的な排出
- Scope3: サプライチェーン全体における間接的な排出(原材料調達、製品輸送、出張、通勤、販売した製品の使用・廃棄など)
企業の脱炭素戦略においては、これら3つのスコープすべてを考慮した排出削減が求められています。
出典元:
環境省「サプライチェーン排出量算定の考え方」 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/
脱炭素ドミノ
脱炭素ドミノとは、一つの国や地域、企業が脱炭素に向けた取り組みを始めると、その影響が連鎖的に広がり、他の国や地域、企業も脱炭素化に向かっていく現象を指します。例えば、ある国が厳しい環境規制を導入すると、その国と取引する企業や国々も同様の基準に対応するようになり、結果として世界全体の脱炭素化が加速するという考え方です。
脱炭素ドミノは、特に国際的なサプライチェーンや貿易関係において重要な概念となっており、先進的な取り組みが世界的な潮流を生み出す可能性を示しています。また、気候変動対策における国際協力の重要性も示唆しています。
出典元:
経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」 https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html
脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?
カーボンニュートラルの意味・定義
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」と「吸収量」を均衡させることを意味します。企業や国が活動で排出する二酸化炭素などを、森林による吸収や技術的手法で相殺し、実質的な排出量をゼロにする取り組みです。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目標に掲げています。この目標達成には、再生可能エネルギーへの転換、省エネルギー技術の導入、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)などの技術革新が不可欠となります。
出典元:
経済産業省 資源エネルギー庁「カーボンニュートラルとは」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/carbon_neutral/
脱炭素とカーボンニュートラルの明確な違い
脱炭素とカーボンニュートラルは似た概念ですが、明確な違いがあります。脱炭素(ディカーボナイゼーション)とは、温室効果ガスの排出量を削減する取り組み全般を指す広い概念です。
一方、カーボンニュートラルは、排出される温室効果ガスと吸収される温室効果ガスが均衡した状態を意味します。端的に言えば、脱炭素は「排出量を減らすプロセス」であり、カーボンニュートラルは「最終的に目指す到達点」と考えられます。企業活動においては、脱炭素の取り組みを通じて、最終的にカーボンニュートラルを実現することが求められています。
出典元:
環境省「脱炭素ポータル」 https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/
脱炭素社会に向けた企業の取り組み
経営者が考えるべき「脱炭素」
経営者にとって脱炭素は単なる環境対応ではなく、企業価値向上の重要な経営戦略です。投資家からのESG投資拡大や取引先からの排出量削減要請など、ビジネス環境が急速に変化しています。
脱炭素への取り組みは、コスト削減やイノベーション創出、新市場開拓といった競争優位性につながります。経営者は自社の事業特性に合わせたカーボンニュートラル戦略を策定し、スコープ1から3までの排出量を把握した上で、再生可能エネルギーへの転換や省エネ設備投資などの具体的施策を推進することが求められています。
出典元:
経済産業省「GXリーグ 脱炭素経営ガイドブック」 https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX-league/gxl_guidebook.html
脱炭素のビジネスモデル
脱炭素を核としたビジネスモデルは、環境価値と経済価値を両立させる新たな事業機会として注目されています。従来型のビジネスモデルから脱却し、温室効果ガス排出削減と経済成長の両立を目指す取り組みが進んでいます。
脱炭素ビジネスは、エネルギー効率化やリソース活用の最適化によるコスト削減、環境負荷低減による企業価値向上、新市場創出によるイノベーション促進といった多面的な価値を生み出します。近年では特に、デジタル技術を活用した排出量管理や再生可能エネルギーの普及、循環型経済の実現に寄与するビジネスモデルが急速に発展しています。
出典元:
環境省「環境ビジネスの振興」 https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/
脱炭素経営を目指すための豆知識
脱炭素経営expo
脱炭素経営expoは、企業の脱炭素化を支援するための最新技術やソリューションが一堂に会する国内最大級の展示会です。2023年度の開催では、約350社が出展し、再生可能エネルギー、省エネ設備、排出量可視化ツール、カーボンオフセットなど多様な分野の企業が参加しました。
同時開催されるセミナーでは、先進企業の事例発表や専門家による解説が行われ、多くの経営者や環境担当者が情報収集や人脈形成に活用しています。次回の開催は2025年6月に予定されており、脱炭素経営のトレンドを把握する重要な機会として注目されています。
出典元:
経済産業省「カーボンニュートラル関連展示会情報」https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/events/index.html
脱炭素化支援機構
脱炭素化支援機構(JGRF:Japan Green Reform Fund)は、2023年に設立された日本の脱炭素化を促進するための政府系ファンドです。官民連携で総額10兆円規模の投資を行い、民間企業の脱炭素プロジェクトを資金面から支援しています。
具体的な支援事例として、洋上風力発電プロジェクトへの1,500億円規模の投資や、水素サプライチェーン構築への600億円の資金提供などがあります。民間金融機関だけでは資金調達が難しい大規模プロジェクトの実現を可能にし、日本の2050年カーボンニュートラル達成に向けた重要な役割を担っています。
出典元:
経済産業省「GX実現に向けた基金・ファイナンスについて」https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/GX/finance.html
脱炭素コンソーシアム
脱炭素コンソーシアムは、複数の企業や団体が連携して脱炭素化に取り組む枠組みです。代表的な事例として、「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)」があります。JCLPには200社以上の企業が参加し、再生可能エネルギーの共同調達や政策提言活動を展開しています。
また、「ゼロカーボン・スチール推進コンソーシアム」では、鉄鋼メーカーや自動車メーカーなど30社以上が協力し、製鉄プロセスの脱炭素化技術開発を進めています。こうしたコンソーシアムは、単独企業では解決困難な課題に業界横断で取り組むことで、効率的な脱炭素化を実現しています。
出典元:
環境省「企業版2050年カーボンニュートラルに向けた取組」 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/
脱炭素電源オークション
脱炭素電源オークションは、再生可能エネルギー事業者を競争入札で選定し、効率的な脱炭素電源の導入を促進する制度です。ドイツでは風力・太陽光発電プロジェクトが急増し、エネルギー価格低下とCO2削減を同時達成しています。インドでは低コストで大規模太陽光発電を実現し、再エネ普及のモデルケースとなりました。
日本では経済産業省が2023年度に「長期脱炭素電源オークション」を開始し、初回入札で蓄電池・揚水発電401万kW、既設火力改修82.6万kWが約定しました。2024年1月の第1回入札では募集量400万kWに対し780.5万kWの応札があり、民間企業の関心の高さが示されています。
「脱炭素化支援機構(JICN)」は、風力発電や水素技術への投資を通じた資金支援を実施し、官民連携の成功例として注目されています。
参考文献:
経済産業省「長期脱炭素電源オークション概要」 https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/100_04_00.pdf
脱炭素アドバイザー
脱炭素アドバイザーは、企業や自治体が脱炭素化を進めるための専門的な助言を提供する人材です。環境省が認定する資格制度では、温室効果ガス排出量の算定や削減策の提案など、幅広い知識を備えた人材を育成しています。
例えば、ぐんぎんリース株式会社では、脱炭素アドバイザー資格を持つ社員が親会社の群馬銀行と連携し、取引先企業に対して脱炭素機器の導入や補助金活用を支援しています。この取り組みは地域全体の脱炭素化推進に寄与しています。また、自治体では中小企業向けに資格取得費用を補助する制度もあり、専門人材の育成が進んでいます。
参考文献:
環境省「脱炭素アドバイザー資格制度認定事業」https://www.env.go.jp/page_00362.html
第一生命経済研究所「企業は脱炭素分野の人材育成に積極投資を」https://www.dlri.co.jp/report/ld/333556.html
脱炭素社会に向けた企業の取り組みとその事例
脱炭素社会の実現に向け、多くの企業が以下のような施策を実施しています。
再生可能エネルギーの導入
自社施設での太陽光発電や風力発電の設置、再生可能エネルギー由来の電力購入を通じて、温室効果ガスの排出削減を図っています。
省エネルギー対策
高効率な設備やシステムの導入、エネルギー管理システムの活用により、エネルギー消費の最適化を進めています。
サプライチェーン全体での排出削減
取引先や物流プロセスにおける排出量の把握と削減を推進し、全体的な環境負荷の低減に努めています。
カーボンオフセットの活用
排出削減が難しい分野では、森林保全プロジェクトへの投資やカーボンクレジットの購入を通じて、実質的な排出量の相殺を行っています。
事例①「トヨタ自動車のハイブリッド車普及活動」
トヨタ自動車は、1997年に世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」を発売しました。これにより、燃費性能の向上とCO₂排出量の削減を実現し、現在ではハイブリッド技術を多様な車種に展開しています。同社の取り組みは、世界的な環境意識の高まりに寄与しています。
事例②「パナソニックの再生可能エネルギー活用」
パナソニックは、太陽光発電システムや蓄電池の開発・提供を通じて、再生可能エネルギーの普及促進に努めています。家庭や企業向けのソリューションを提供し、エネルギーの自給自足や効率的な利用を支援しています。
事例③「日立製作所の省エネルギー技術導入」
日立製作所は、省エネルギー性能の高い電力機器や産業機器の開発を行っています。これらの製品は、エネルギー消費の効率化を促進し、企業や施設の環境負荷低減に寄与しています。
事例④「ソニーのカーボンニュートラル達成」
ソニーは、製品のライフサイクル全体でのCO₂排出量削減を目指し、再生可能エネルギーの導入や省エネ設計を推進しています。これらの取り組みにより、カーボンニュートラルの達成を目指しています。
事例⑤「NTTグループのグリーンICT推進」
NTTグループは、ICT技術を活用した環境負荷低減策を推進しています。データセンターの省エネルギー化や、環境配慮型の通信サービスの提供を通じて、脱炭素社会の実現に貢献しています。
脱炭素先行地域とは?
脱炭素先行地域とは、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2030年度までに民生部門(家庭部門および業務その他部門)の電力消費に伴うCO₂排出を実質ゼロにし、地域特性に応じた温室効果ガス削減を目指す地域を指します。
背景と目的
日本政府は、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げ、地域主導の脱炭素化を推進しています。この取り組みは、地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入や、地域経済の活性化を通じて、地方創生にも寄与することを目的としています。
選定プロセスと現状
環境省は、意欲と実現可能性の高い地域を脱炭素先行地域として選定しています。2024年9月までに、第5回選定を含め、全国で82件の計画提案が選ばれました。
具体的な取り組み事例
佐渡市(新潟県)
離島特有の課題解決を目指し、防災拠点庁舎や公共施設に太陽光発電設備や蓄電設備を導入しています。
屋久島(鹿児島県)
年間降水量が多い特性を活かし、水力発電で島内のほぼ100%の電力を賄い、脱炭素化を推進しています。
その他の地域
全国各地で、地域資源を活用した再生可能エネルギーの導入や、省エネルギー施策が進められています。
今後の展望
政府は、2025年度までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域を創出し、2030年度までに具体的な成果を上げることを目指しています。これにより、多様な地域での脱炭素化モデルを全国に展開し、持続可能な社会の実現を推進しています。
出典元:
環境省「脱炭素先行地域募集(第3回)について」 https://www.env.go.jp/press/press_01159.html?utm_source=chatgpt.com
環境省「脱炭素先行地域選定結果(第5回)について」 https://www.env.go.jp/press/press_03770.html?utm_source=chatgpt.com
佐渡市脱炭素情報サイト「佐渡市が脱炭素先行地域(第1回)に選定されました」 https://www.city.sado.niigata.jp/site/sado-zerocarbon/38500.html?utm_source=chatgpt.com
環境省 「脱炭素地域づくり支援サイト」 https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region
まとめ
脱炭素の取り組みは、企業や社会全体にとって重要な課題です。温室効果ガスの排出削減に向けた具体的な行動として、再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の活用が挙げられます。また、企業のカーボンフットプリント(CFP)を可視化し、管理することで、脱炭素社会の実現に貢献できます。脱炭素に向けた意識改革と技術革新は、今後の社会の持続可能性を支える鍵となるでしょう。