【簡単解説】ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?計算方法や省庁の考え方をわかりやすく紹介!

■AIによる記事の要約
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでの環境影響を定量的に評価する手法で、カーボンニュートラル達成に不可欠です。LCAは環境負荷の可視化や改善点の特定に役立ち、国際規格ISO 14040に基づいて実施されます。関連する手法や省庁の取り組みも紹介されており、企業は目的に応じた評価方法を選ぶことが求められます。
ライフサイクルアセスメント(LCA)の意味
近年、企業の環境への取り組みが一層重視される中、製品やサービスが環境に与える影響を評価する手法として「ライフサイクルアセスメント(LCA)」が注目されています。本記事では、ライフサイクルアセスメントの基本的な概念から実践的な計算方法、さらには日本の各省庁の考え方まで、サステナビリティ担当者や経営層の方々にとって有益な情報を詳しく解説します。
ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment; LCA)とは、製品やサービスのライフサイクル全体(原材料調達、製造、流通、使用、廃棄・リサイクル)を通じて環境への影響を定量的に評価する手法です。製品やサービスの「ゆりかごから墓場まで」のあらゆる段階で発生する環境負荷を包括的に分析することができます。
LCAの主な目的は以下の通りです。
- 製品やサービスの環境パフォーマンスを評価する
- 環境負荷の大きい工程や原材料を特定する
- 製品設計や製造工程の改善点を見出す
- 環境配慮型の意思決定を支援する
- 環境主張の根拠を提供する
国際標準化機構(ISO)では、LCAに関する規格としてISO 14040シリーズを制定しています。この規格に基づき、世界中で統一された方法論でLCAが実施されています。
出典:経済産業省「ライフサイクルアセスメント(LCA)活用ガイド
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/research/pdf/LCA_guide.pdf
ライフサイクルアセスメント(LCA)と関連用語の相関関係
ライフサイクルアセスメントとカーボンフットプリントの関係
カーボンフットプリント(CFP)は、LCAの一種であり、特に温室効果ガス(GHG)排出量に焦点を当てたものです。製品やサービスのライフサイクル全体を通じた二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量を、CO2換算量として算出します。
LCAが複数の環境影響カテゴリー(温暖化、酸性化、富栄養化など)を評価するのに対し、CFPは地球温暖化への影響のみに注目している点が異なります。しかし、両者は製品のライフサイクル全体を考慮する点で共通しています。
出典:環境省「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/cfp
ライフサイクルアセスメントと環境アセスメントの違い
環境アセスメント(環境影響評価)は、主に大規模な開発事業が環境に与える影響を事前に調査・予測・評価する制度です。一方、LCAは製品やサービスを対象としています。
両者の主な違いは以下の通りです。
項目 | ライフサイクルアセスメント(LCA) | 環境アセスメント |
---|---|---|
対象 | 製品・サービス | 開発事業(道路、ダム、工場建設など) |
評価範囲 | ライフサイクル全体 | 主に建設と運用段階 |
目的 | 環境負荷の定量化と改善 | 環境保全措置の検討と実施 |
法的根拠 | 任意(ISO規格あり) | 環境影響評価法など |
出典:環境省「環境アセスメント制度のあらまし」
https://www.env.go.jp/policy/assess/1-1outline
ライフサイクルアセスメントとカーボンニュートラルの関係
カーボンニュートラルは、事業活動や製品のライフサイクルを通じて排出される温室効果ガスと吸収される温室効果ガスが差し引きゼロになる状態を指します。LCAは、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの基盤となる重要なツールです。
LCAによって製品やサービスのライフサイクル全体での温室効果ガス排出量を正確に把握することで、効果的な削減策を講じることができます。また、カーボンニュートラル達成の検証にもLCAの手法が活用されています。
出典:経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
ライフサイクルアセスメントの課題
LCAを実施する上では、いくつかの課題が存在します:
- データの収集と精度:サプライチェーン全体から正確なデータを収集することは容易ではありません。特に二次・三次サプライヤーのデータ取得が難しい場合があります。
- システム境界の設定:評価対象のシステム境界(どこまでを含めるか)の設定によって結果が大きく変わる可能性があります。
- 配分方法の問題:複数の製品を生産するプロセスでは、環境負荷をどのように配分するかが課題となります。
- 地域性と時間的変化:地域によって環境影響が異なる場合や、時間の経過とともに技術や環境条件が変化する場合の扱いが難しいです。
- 比較可能性の確保:異なる製品間の比較を行う際、公平な比較のための条件設定が難しい場合があります。
これらの課題に対応するため、各種ガイドラインや製品カテゴリールール(PCR)の整備が進められています。
出典:国立環境研究所「ライフサイクルアセスメント研究の動向と課題」
https://www.nies.go.jp/kanko/news/37/37-4/37-4-04.html
ライフサイクルアセスメントの手法
LCAには主に以下の手法があります。
手法 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
プロセス法 | 各工程を分解し積み上げる | 精度高いが手間が大きい |
産業連関分析法 | 産業連関表で推計 | マクロ視点だが精度やや低 |
ハイブリッド法 | 上記2法の組合せ | バランス型で広く使われる |
簡易法 | 既存DBを活用 | 早く安価だが概算レベル |
コンセクエンシャルLCA | 意思決定の影響を評価 | 将来予測にも活用可能 |
企業の規模や目的に応じて適切な手法を選択することが重要です。
出典:産業環境管理協会「LCA実務入門」
https://www.jemai.or.jp/lca
ライフサイクルアセスメントの4段階
ISO 14040シリーズでは、LCAの実施手順を以下の4段階に分けています:
1. 目的と調査範囲の設定
– 評価の目的と対象範囲を明確にします
– 機能単位(比較の基準となる単位)を定義します
– システム境界(含める工程と除外する工程)を設定します
2.インベントリ分析
– ライフサイクル全体のデータを収集します
– 各プロセスの入出力(原材料、エネルギー、排出物など)を定量化します
– データの検証と整理を行います
3.影響評価
– インベントリデータを環境影響カテゴリーに分類します
– 特性化(各物質の環境影響を共通の単位に換算)を行います
– 必要に応じて正規化、重み付けを行います
4.解釈
– 結果を分析し、重要な環境影響を特定します
– 不確実性や限界を考慮します
– 改善の機会を見出し、提言をまとめます
これらの段階は必ずしも一方向に進むわけではなく、反復的なプロセスとして実施されることが多いです。
出典:ISO 14040:2006「環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント-原則及び枠組み」
https://www.iso.org/standard/37456.html
ライフサイクルアセスメント 評価・計算方法
LCAの計算方法は以下のステップで行われます
1. 機能単位の設定
評価の基準となる機能単位(例:1kg製品、1回の使用、1年間の使用など)を定義します。
2.システムフローの作成
製品のライフサイクル全体のプロセスフロー図を作成し、各プロセスの入出力を特定します。
3.データ収集
各プロセスのデータ(原材料、エネルギー、排出物など)を収集します。一次データ(実測値)と二次データ(データベース値)を組み合わせて使用します。
4.インベントリ分析の計算
各プロセスの入出力データを機能単位あたりに換算し、ライフサイクル全体で集計します。
5.影響評価の計算
インベントリデータを環境影響カテゴリーに分類し、特性化係数を用いて影響量を算出します。
主な環境影響カテゴリーとその計算例
– 地球温暖化:各温室効果ガスの排出量 × 地球温暖化係数(GWP)= CO2換算量
– 酸性化:各酸性化物質の排出量 × 酸性化係数 = SO2換算量
– 富栄養化:各栄養塩類の排出量 × 富栄養化係数 = PO4換算量
– 資源枯渇:各資源の使用量 × 資源枯渇係数 = Sb換算量
例として、製品1kgあたりの地球温暖化への影響を計算する場合は以下のの通りになります。
- CO2排出量: 2kg × 1(GWP) = 2kg-CO2e
- メタン排出量: 0.01kg × 28(GWP) = 0.28kg-CO2e
- 一酸化二窒素排出量: 0.001kg × 265(GWP) = 0.265kg-CO2e
- 合計: 2 + 0.28 + 0.265 = 2.545kg-CO2e/kg製品
出典:産業技術総合研究所「LCA実施のためのインベントリデータベース」
https://www.aist-riss.jp/softwares/39166
ライフサイクルアセスメントにおける省庁の考え方
ライフサイクルアセスメントの考え方:環境省
環境省はLCAを環境政策の基盤となる手法として位置づけ、様々な取り組みを推進しています。
- カーボンフットプリント制度の推進
製品やサービスのライフサイクルにおける温室効果ガス排出量を見える化する制度を推進しています。 - グリーン購入法への活用
環境物品等の調達の推進に関する法律(グリーン購入法)におけるLCAの考え方を導入し、製品の環境負荷評価に活用しています。 - 循環型社会構築への応用
廃棄物・リサイクル政策においてLCAを活用し、真に環境負荷が低減される循環利用の推進を図っています。 - 環境ラベリング制度との連携
エコマーク等の環境ラベリング制度にLCAの考え方を取り入れ、製品の環境性能の評価に活用しています。
出典:環境省「ライフサイクル思考に基づくカーボンニュートラル実現のための戦略」
https://www.env.go.jp/content/000196216.pdf
ライフサイクルアセスメントの考え方:経産省
経済産業省は産業政策との連携を重視しながらLCAを推進しています
- 国際競争力強化のためのLCA活用
日本の製品・サービスの環境性能を適切に評価し、国際競争力の強化につなげる取り組みを推進しています。 - カーボンフットプリントの国際標準化
ISO/TC207(環境マネジメント)やISO/TC323(サーキュラーエコノミー)などの国際標準化における日本の立場を強化しています。 - 産業界におけるLCA実施支援
「LCA日本フォーラム」の活動支援や、企業向けの実践ガイドラインの策定を行っています。 - サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現
LCAを活用した排出量の可視化と削減を促進し、産業界のカーボンニュートラル達成を支援しています。
出典:経済産業省「カーボンニュートラルに向けたLCA活用ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/cn_lifecycle/guideline.html
ライフサイクルアセスメントを導入企業と具体事例
電気自動車(EV)
トヨタ自動車は、EVの製造から廃棄までのライフサイクル全体の環境影響評価を実施しています。バッテリー製造時のCO2排出量が多いことを認識し、低炭素電力の利用やバッテリー寿命の延長、リサイクル技術の向上などの対策を講じています。
また、日産自動車の「リーフ」では、LCA結果をもとにガソリン車と比較したCO2排出量削減効果を定量化し、マーケティングに活用しています。
出典:トヨタ自動車「サステナビリティデータブック」
https://global.toyota/jp/sustainability/report/archives
建築
大成建設は、建築物のライフサイクルを通じた環境負荷評価システム「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)の開発に参画しています。この評価システムを用いて、設計段階からCO2排出量や資源消費量などを評価し、環境配慮型の建築設計を推進しています。
出典:建築環境・省エネルギー機構「CASBEE建築評価システム」
https://www.ibec.or.jp/CASBEE
食品
キリンホールディングスは、ビール製品のLCAを実施し、製品ライフサイクルの中で最も環境負荷が大きい工程が容器製造であることを特定しました。これに基づき、容器の軽量化やリサイクル性の向上に取り組んでいます。
また、不二製油グループは、パーム油のサプライチェーン全体のLCAを実施し、持続可能な調達に向けた取り組みを強化しています。
出典:キリンホールディングス「環境報告書」
https://www.kirinholdings.com/jp/investors/library/integrated
建築物
三井不動産は、オフィスビルやマンションのLCAを実施し、建設時と運用時の双方でCO2排出量を削減する取り組みを進めています。特に、木材を活用した建築や高効率設備の導入により、ライフサイクルでのCO2排出量を従来比30%削減した事例もあります。
出典:三井不動産「ESG報告書」
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/esg_csr
太陽光発電
京セラは、太陽光発電システムのLCAを実施し、製造段階のエネルギー投入量と運用段階の発電量の比較(エネルギーペイバックタイム)を計算しています。近年の技術向上により、日本の標準的な気候条件で約2年でエネルギー投入量を回収できることを示しています。
出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「再生可能エネルギー技術白書」
https://www.nedo.go.jp/library/ne_hakusyo.html
まとめ
ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品やサービスがライフサイクル全体を通じて環境に与える影響を包括的に評価する重要なツールです。ISO 14040シリーズに基づく標準的な手法として、目的と調査範囲の設定、インベントリ分析、影響評価、解釈の4段階で実施されます。
LCAの実施には、データ収集の難しさやシステム境界設定の課題がありますが、環境省や経済産業省を中心に推進されており、多様な業種で導入が進んでいます。特に近年は、カーボンニュートラル達成に向けた取り組みの基盤として、その重要性が高まっています。
企業がLCAを活用することで、製品設計の改善、環境コミュニケーションの強化、コスト削減などの様々なメリットが得られます。今後はデジタル技術の発展により、より精緻なLCAの実施や、リアルタイムでの環境影響評価が可能になることが期待されています。
持続可能な社会の構築に向けて、LCAの考え方を企業活動に取り入れることは、環境負荷の低減だけでなく、企業価値の向上にも寄与する重要な取り組みといえるでしょう。